エピローグ──吟遊詩人の奏でる物語 -1
とある街のとある酒場、雑多な人々はビールやワインを口にして待っていた。酒場のコーナーには小さくささやかなステージがあった。だから、多くの弦を張り巡らせたバンドューラを抱えた灰褐色のマントを羽織り、同じ色の帽子を目深に被った男がそこの小さな椅子に腰掛けて楽器を構えるのも別に珍しい事ではない、いつもの風景だった。
その小柄な吟遊詩人はバンディーラという地球という『影』から持ってきた不思議な楽器を操り、つま弾いた。その思わぬ美しい透明な響きに、衆目が集まった。そして彼は朗々と歌い始めた。
ある国があったとある国があった
その国は呪われていた悲しいことに呪われていた
疫病は国全体を冒したその病気は男と女の交わりでたちまち拡がった
四季さえ忘れられる悲劇でその国は覆われた
そんな時他の国から化け物を従えた蛮族が襲いかかった
12人の賢者達は一人の若い賢者に全てを託した
今一度この国がかつての笑顔を取り戻すためには何もいとわないと
今一度この国がかつての笑顔を取り戻すためには我が生命をも差し出そうと
若い賢者は遠く離れた国の弟に願ったその民を救う術を願った
やって来たのはその国を統べるべき女王
その顔は華のごとく仕草は美しく言葉は岩のように揺るぎない自信に満ちていた
女王は言った全ての男と女を分かち待つことを
女王がもたらした薬の効果は驚きを民に与えた
まるで死者がよみがえるごとく全ての病は治り
化け物を従えた蛮族は48の鍵盤を持つ楽器の調べに呪われ潰えた
嗚呼全ての民と12人の議員は女王に忠誠を誓った
嗚呼全ての民と12人の議員は女王に忠誠を誓った
この国に陽射しを取り戻し繁栄を約束した女王に全てを託しその名に従うことを誓った
バンドューラが溢れる透明な音色を酒場に響かせたその指は華麗な舞いを踊り人々を魅了して止まなかった。ナプキンに包まれた貨幣が吟遊詩人の足下に落ちた。
ある国があったとある国があった
その国を統べる女王は傲慢になった男女の貴賤を分け隔て下賤なる物を追放し
優れたる者だけでこの国を王道楽土に導くと
優れたる者だけでこの国の未来を薔薇と黄金とに包まれた
世界で最も美しい国にする事を約束した
その対価は厳しく民は苦しみに耐えることになった
女王は48の鍵盤を女達に作らせそれを持つ兵士には麻薬を与えた
嗚呼全ての民と12人の議員はそれを望まなかった
嗚呼全ての民と12人の議員はそれを望まなかった
その国は獰猛な侵略国家と化した
しかし世界を裁く者は女王を許さなかったその槌と言葉で女王は塵となった
まるでハシバミの枝を子供が折るように女王は世界で力を失い塵となった
嗚呼全ての民と12人の議員はその手に当たり前の幸福と
当たり前の未来を手にした
子供は地に溢れ親たちはそれを祝福した
救いには対価があることを願いには欲望に応えることを
12人の議員はもう誰にも願わない民も自由のために高くを望まない
その国は穏やかな風の吹く何処とも知れぬ国になったとさ
その国は穏やかな風の吹く何処とも知れぬ国になったとさ
その国は穏やかな風の吹く何処とも知れぬ国になったとさ
誰も思い出せないただの国になったとさ
それが民の何よりの願いであるとに気付いたのだから
最後の和音が響いた後、吟遊詩人の足下には多くの銅貨が包まれていた。
そこ灰褐色の装いの吟遊詩人は孔雀の羽根飾りに付いた鍔の広い帽子を取り、優雅に感謝を示した。