電脳のゴシップとその事情──廻天百眼と執事の復刻-2
「廻天百眼」メンバー ----------------------------------
Yuquo/Vocal
Akira/Gutter
Isotope Rain/Bass
K'sk/Drums
Amane/Keyboard
────────痩せた娘と服がかぶった時の対処法/特報Queens───────
「おいおい、すっげえことになってんじゃんよ」
「ま、由子はいつかやると思ってたけど、そうか、あの『フィヨルド』のベーシスト、捕まえたんだ……と言うことは、俺ってチケット全部タダじゃんか! やりい!」
「え?『フィヨルド』関係してんなら俺にも資格はあるだろ!」
「お前みたいのが来たら確実に女喰うからダメ」
「俺、仕事してんじゃん! 俺の努力は誰に褒められるのよ。褒められるどころか責められてんじゃん。評価しろよ! 認めろって言って居るんだよ! チケット寄こせ!」
「だからね、伊集院。それはそれ、これはこれなんだな。殺人者が人助けをしたからって罪は消えないんだな、これが」
伊集院はいきり立って唾を飛ばす。
「どういう比喩だよそれは。俺にだってプライベートってもんがあるんだよ! 放課後、部活やって帰る途中で遊んだら責められるのかよ! 少なくとも誰かさんみたいに伊勢屋で酒喰らって帰ったりしねえぞ俺は!」
照井はふんふんとまるで気のない頷きを返す。
「評判って言葉を知っているか? 俺は一応この学園の創立者の後継者だ。学園の評判をだな、少なくとも自分のクラスからだけは避けたいの。コンサートなんて公の場でわいせつ物を陳列されたら困るの」
「じゃあ! もうばれなきゃいいんだろ! 人殺したってばれなきゃ犯罪じゃねえんだからな! わあかった。わかったよ。もう健全にはやらねえ! 影でこそこそやってやろうじゃん。それならいいだろ」
照井は意地の悪い笑みを浮かべ、大声で言った。
「伊集院は最近実の妹にも『ひどいこと』したって中等部じゃ有名な話だぞ。家族を手込めにするようなやつは人間じゃないよ。ケダモノってんだよ! どうだ、申し開きが出来るのか?」
「あ〜あのガキ〜!!」伊集院は泣きそうな顔をして顔を覆い、身体を傾がせて絶望した。実際ちょっと泣いていた。
「いいよ俺、ネットで暮らすもん。ネットでバーチャルにエッチするもん」
伊集院はべそを掻きながらMarc-Areのパームレストに顎を乗せてベソをかいた。ディスプレイにはブラウザがリロードされて、新着のニュースを流していた。
────────誰でもラノベ作家になれる!有名変態作家の脱税法───────
【ニュース・社会】
野党の反対に追い風 「遺伝子保護法案」破棄か
臨床実験が破綻───審議会の解散も
────────信じられない!ラノベ出版社の黒い編集者、ロリコン?───────
執事には名前がない。必要なときに必要な事だけすればいい。それは充分に解っている。しかしこのままでは涼子様だけでなく、お舘様まで健康の危機に晒されると判断したからには、やるべき事をやらなくてはならない。
三浦家の孫娘、涼子の部屋の襖の前で、執事は静かなバリトンを響かせた。
「お嬢様、いらっしゃいますか」
当然のことながら答えはない。それは解っている。
「今日で三日もお部屋からでておりませんので、当家使用人代表としてまいりました」
ここで少し間を置くこと。必須である。
10分ほど経ってから、もう一度静かに声を出す。
「お舘様もお嬢様がふさぎ込んでいらっしゃいますので、お酒のみお召しになっておりまして、このままでは大変遺憾な事態になりかねません」
ひととき待つ。ここからは命を賭ける事になる。
「お嬢様にお手紙が届いております。しかしながら襖の隙間に差し込むような真似は出来ませんので、お嬢様の机に置かせて頂きます」
充分覚悟した時間が経った。かすかな、かすかな声がくぐもって聞こえた。
「襖を開けたりしたら許しませんよ」
「当然でございます。そんなことをしたら万死に値します」
執事は正確に涼子の机がある廊下の壁に回り込み、封筒を持ったまま「滲んだ」。
「それではお嬢様、失礼致します」
執事は階段を登ってきたときと同じように静かに降りて行った。