狂【序章】-2
『さっきの眼鏡子ちゃん。あーゆーのがその気になっちゃうと超めんどくせーぞ』
ゴロンと俯せに転がり 背中を焼き始める達也。
俺もその横で俯せに向き直る。
『あぁ。大丈夫だろ。何つーの? 俺あーいう子みるとイヂメたくなっちゃうのよ。ホラ、俺 ドSですから』
達也はハッと軽く笑った後で 『痛いめはあってみなけりゃ分かんないってか』と更にニヤニヤした顔になった。
『お前もそのニヤケたツラどーにかしろよ。そのうち俺 殴っちゃうかもよ?』
ニヤリと笑う俺を見て達也はコロッと無表情に変えてみせた。
『……ブッ』
『何で笑うんだよ』
午後の予鈴が鳴るまでずっと 俺たちは中庭で笑い転げていた。
『お疲れっした』
ガソリンスタンドでのバイトを終えて原付にまたがる。
『隆士くん』
小走りに寄ってきたのはバイト先の可愛い姉ちゃん。
『あのさ 日曜って空いてる?』
モデル級に可愛い笑顔を向けられて 断る奴がいるのだろうか?
『いや 常に暇っすけど』
可愛い姉ちゃんは更に満面の笑顔になり
『じゃあコレ。一緒に観に行かない?』
差し出された光沢のあるペラペラな紙には最近流行ってるホラー映画のタイトルが書かれていた。
『マジすか?いいっすよ。俺も丁度観たかったし』
目の前の餌に見事に涎を隠してみせた。
ホラー映画よりVシネの方が観たかったなぁ。 まぁ今言うところではないが。
『本当?!良かったぁ。断られたらどうしようかと思っちゃった。』
照れ臭そうに笑う姉さん。可愛いなぁー‥
『じゃあ日曜日にねっ』
小さく手を振ってから くるっと背を向けて走り去っていく。
『はーるよこぉーい』
俺は小さくつぶやいた。
ガラッ
低血圧な俺は物凄い仏頂面で教室のドアを開けた。
俺の席の周りにはキャアキャアうるさい女達。
ったく朝からよくそんなテンション上がるな。
『おぃ』
黄色い声のなか出された低い声に 一人がびくっとして周りを諭すようにその場を離れた。
机にカバンを置いてドカッと椅子に座る。