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黎明学園の吟遊詩人
【ファンタジー その他小説】

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三浦涼子の憤慨──「スタッカート」とフィヨルド議会-3


 静寂が皇姫である涼子の私室を満たす。
「ごきげんよう。貴方は音楽をやる人? それとも聴くだけの人? それとも両方かしら」
 男は涼子の神々しい美しさに見とれ、震えた言葉を漏らす。
「……聴く人っていうか、勿論聴くけど、主にその、警備に当たっていて…」
「そう。それは好都合だわ」
 涼子の回りの温度が10度ほど下がる。そして深い漆黒の瞳が、みるみる濁りきった鉛色に変化した。右手が裁ち鋏を掴む。
「あなたたち、諦めないわよねえ。諦めずに続けるんでしょ? あの不快な毒音波を撒き散らすんでしょ? 次は何処でするのかな〜、教えてくれない?」
「あ、あ、あれはビリー・シアーズが決めるもので、俺たちには解かんないっすよ」
「でも、出来る場所はある程度知っているわね? 何処でやる可能性が大きいか、ぐらいは解るわよね」
「ま、まるっきり解んないっす! 俺ら下っ端だから」
 涼子は裁ち鋏を持ち、立ち上がり、男に近寄る。そして鉛色の瞳を輝かせて、鋏を男の左耳に添えた。
「…ちょきん」
 男の耳の4分の1が断ち切られる。男は悲鳴を上げた。迸る血が床を汚す。
「あらあら、あの毒音波と変わらない声を出すのね。消音しなくっちゃ」
 涼子はティーポットに乗せてあったカバーを取り、男の口に無理矢理ねじ込む。そして今度は左の耳の同じ場所を切り取る。男の絶叫はくぐもって母音しか聞こえない。うめき声と鳴き声がないまぜになった所で、カバーを引っこ抜く。
「どう、思い出したかしら? 私は現代彫刻には疎くて、上手く作れないのよ」
「ししししし知らねえものは喋れないようっ、かかかかんべんしてくれえうっ」
 再びカバーが口に突っ込まれる。
「…ちょきんちょきん」
 男の残った両耳が残らず切り落とされた。男は白目を剥き、口から泡を吹く。涼子は黙ってティーポットを握ると、男の頭から熱湯を浴びせた。そしてまたカバーを引き抜く。
「思い出したかな〜?」
「……き…た……多分、サクラ…ファミリアの……姉妹店…た、すけて」
「ほ〜う。やれば出来るじゃない。でも、私の芸術のインスピレーションが湧いちゃって、もう大変なの。最後まで作らないとね〜」そう言うと、涼子は非情にも奥深く念入りにカバーを男の喉の奥にまで突っ込んだ。
 鼻の先を切断し、鼻の穴に沿って両側を揃えるように切り開いて行く。睫を引っ張って、右左交互に瞼を切り取って行く。下唇を引っ張り、右から左へと切断した。
 男の顔は殆ど血の塊になり、床には血と涙、涎と鼻汁が飛び散り、惨憺たる光景を呈する。
「う〜ん。どうかしら? ま、失敗作ね」
 涼子はそう言い捨てると喉に詰め込んだティーポットのカバーを引きずり出し、丁寧に男の顔全体を覆うように被せる。
「サインをしなくちゃね」
 止めのように男の顎を強烈な勢いで蹴り上げる。男はティーポットのカバーを被ったまま昏倒した。
 涼子は汚れた両手をテーブルクロスで神経質に拭き取って、居住まいを正して大きく手を叩いた。すぐに扉が開き、衛兵が入ってくるが、その惨状に凍り付く。
「ごめんなさいね、そのゴミ、燃えるゴミの日に捨てておいて下さい。それから、『スタッカートの部屋』に精鋭部隊「ピチカート」を集めて。大至急お願いね」
 そう言い捨てると、また華のような笑顔で衛兵に微笑み、「スタッカートの部屋」に向かって歩き始めた。


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