喰い込む-1
「こっちだ。」
服を全て剥ぎ取られ、ソックスとパンティだけの姿にされた私は、先輩に手を引かれて洋室に移動した。
そこは12畳はありそうな広い部屋で、中央にシングルベッドが置かれていた。
照明は電球色で薄暗い。天井を見上げると、格子状に黒いバーが張り巡らされていて、いくつものスポットライトがベッドを狙っていた。逆光なのでよくは見えないが、ライトの他にも何かがぶら下がっているようだ。
「さあ。」
促されるままにベッドに横たわった私に、立ったままの先輩が言った。
「見せてみろ。」
「え?何をですか。」
「お前が俺にグチャグチャにされたい部分をだ。」
「…。」
どんなウソをついても無駄だ。私自身、はっきりと自覚しているし、彼はそれを把握している。
でも、だからといって、ここに下さいと言わんばかりに自分から見せるなんて…。
「膝を上げて左右に広げろ。」
言われた通りにした。私の足元に移動した先輩からは、パンティの薄い布一枚で覆われただけのその部分が丸見えになっているはずだ。そこは既にかなりの水分を含んでいるので、中が透けて見えているかもしれない。
「パンティに指を引っ掛けろ。太腿の内側の部分にだ。」
彼の意図はもう明白だ。
「捲れ。横に捲って中を見せろ。」
命じられたからといって、自分で捲って見せてしまえば、それはすなわち受け入れるという意思表示となる。そこに何をされても受け入れる、という。
「どうした?音楽室では自分から見せたくせに。欲しくないのか?」
パンティに掛けた指が微かに震えている。体はそれを望んでいる。しかし、またもや私は夫を裏切ろうというのか。あれだけ罪悪感に苦しみ、心の中で何度も謝罪し、涙を隠して泣いたというのに。愛と疼きの綱引きで、指の動きが定まらない。
「直香…。素直になれ。そこを俺に痛めつけられたいんだろう?電マで痺れさせられ、縄を喰い込まされて、広げたり噛まれたりクリップで…」
「やめて!」
指先に力を込め、パンティを横に捲った。
「そうよ!私はここに非道い事をされたい。あなたに好き放題にされたい。されたいのよ、されたくなんかないのに…。」
ジン、と目の奥が痺れ、涙が滲んだ。
先輩はその部分を冷めた目でじっと見つめている。
「なぜされたくないんだ、そこがもうそんなことになってるくせに。あの夜、あんなに悦びの声をあげていたじゃないか。車の外に漏れるくらいの、なんの抑制もされていない大きな声で。途方もない快感に全身が痺れ、理性が飛んだんだろう?普通の愛撫や挿入では絶対に得られない、被虐の倒錯ゆえの快楽に、お前は乱れ狂ったんだ。それをもう一度味わわせてやろうと言っているんだ。何を躊躇う?」
私はゆっくりと首を左右に振った。
「もう、もう裏切りたくないの。愛してくれるあの人を。そして…伊巻先輩、あなたを!」
「な…」
動揺したように先輩の口が震えた。
「なんだそれは。」
「あの時の…音楽室の奥で私を初めて抱いた時の先輩が、十年後にこんなことを望むなんて、とても思えない!」
「そ、そりゃあ、若かったし、何も知らなかったし…」
「そう。何も知らなくてヘッタクソで、はっきり言って痛いだけ。気持ち悪くてたまらなかった。」
「えらい言われようだな。まあ、事実だろうけど。」
「でもね、気持ちを感じたよ?本当に私が好きで、欲しくて。真っ直ぐに求めてくれた。なのに、いったいどうしたの?まるで女を獲物か何かの様に扱って。快楽に落とすことにばかり必死になって、私を得ることに喜びを感じていない。どうしてそんな風になっちゃったの?」
「…うるさい。」
ブイーン。
いつの間にか手にしていた電マのスイッチが入れられた。
「お前は俺に弄ばれてヨがり狂ってればいいんだよ!」
ブイィィィ…。
モーター音が近づいてくる。
「だめ、だめよ、だめ…」
激しく震える先端が股間に迫ってくる。このままでは、このままでは…。
ブウゥゥゥゥ…。
「あうっ…」
もっとも敏感な突起に、乱暴に押し付けられた。
「い、痛…」
「痛いか。」
「剥き出しの柔肉をブリブリ震わせられているのよ?痛いに決まっているじゃない!」
「じゃあなぜ避けない?大股広げてパンティを捲り、股間を剥き出しにしてるのはお前自身なんだから、いくらでも逃げられるじゃないか。」
私は答えられない。
ブウゥウゥ…。
「くっ…う、うぅ…」
「欲しいんだよ、お前は。」
ブインイィーン。
「ああっ…」
涙を浮かべながら首を振ったが、私は足を閉じなかったし、パンティを捲っている指の力を緩めなかった。それどころかさらに足を開き、腰を突き上げた。
非道いやり方で痛めつけられることでしか味わえない快感への欲情を、どうすることも出来なかったのだ。
「こうか!こうだろ。さあ、さっさとイって…」
先輩が一瞬口をつぐんだ。
ブイィーン。
「くぅ…」
私は歯を食いしばって先輩を睨みつけた。
「…ふん、頑張るじゃないか。」
ブン。
電マのスイッチが切られ、先輩はそれを部屋の隅に放り投げた。
ゴッ、ゴトッ。
思いのほか大きな音をたてて、私を狂わせていた電マが壁に当たってフローリングの床に転がった。
「はあ…、はあ…。」
私は肩で大きく息をし、視線だけを動かしてその様子を見ていた。