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蛍の想ひ人
【女性向け 官能小説】

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「あの、信之」

それでもきちんと弁解しようとする由布子さんを優しく止めて

「分かってる」

そう笑った。

何が分かっているんだか。
なんで笑っていられるんだか。

自分自身が分からなくなって
でもそう言わないと由布子さんが傷つきそうで
どうにもならない空気をリセットしたくて立ち上がる。

手を引いて車に戻って
話さなくていいようにラジオを付ける。

聞こえてくるパーソナリティーの声は明るくて
その笑いに救われた気がした。

寄り道をしないで、由布子さんの家の前で車を止めて
「夕飯食べなくてごめんな」
ごめん。ごめん。本当にココが限界なんだ。

笑った顔に見えるように口角をあげた。

あ〜・・・
こんなにも泣きたい気持ちなのに
顔は笑えるんだな。

冷静なその感情とともに
やんわりと、由布子さんを車から降ろした。

「あのっ、信之、ごめん、ね」

謝らないで。
みじめになるから。

謝らないで。
思い知らされるから。

どれだけ、貴女が兄貴を忘れていないか、を。



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