もう一人の自分-9
「ちょ、放してって!」
私の制止も聞かずただひたすらある所へ向かい。
「っ!ここって。」
そこは言うまでもない彼女、茜ちゃんの家だ。
「…こんな所に来てどうするの。」
学校にもバイトにも来てない、そんな人が家に居るのだろうか。
無論、電話何かでやしないし。
「正直分からない、けど可能性はゼロではないし。」
やれる事はやろうと…。
「あっ、ちょっ!」
消極的な私とは打って変わって迷う様子を一つも見せない彼がそのまま玄関に歩みよりそしてインターホンに手を掛ける。
「……。」
彼が居なかったらここまで出来なかっただろうね。
「はい…。」
すると意外な事に普通に茜ちゃんが私たちの前に顔を出し。
「っ!!」
しかし私たちの姿を目にした瞬間表情をこわばらせ開けた扉を一気に閉めようとする。
「待って!」
けど、瞬時に彼が片足で扉の下を塞ぎドアを閉められなくして。
「やめて、帰って!この嫌らしい人!」
「帰らないよ!彼女が君に言いたい事があるんだから。」
「そんな事…。」
一瞬、躊躇いを見せる。
「僕らは君を信じてる、伝えたい事があるんだ。」
「……。」
「それをしたらすぐに解散するから、ねっ!?いいでしょ!?」
言葉の返事はないものの、閉めようとしていた扉を開けてくれた。
それから私は居間でこの前廊下で言いそびれた事を思いっきり力強く全て吐き出すように鮮明に伝えた。
気づけばその目は赤くなっていたかもしれない。
「貴女が私の為に頑張ってくれてた事も知らずに本当にゴメンなさい!」
「……。」
居間にはシーンとしたこれでもかってくらいのずっしり重たい空気が、親は今はいないみたい、パートか買い物とか。
先ほどから張り裂けんばかりの口調で彼女に分かってもらおうと訴える私。けど彼女は表情を何一つ変えない。
けれども私には難なくだけど分かる。彼女は分かってくれる。彼女は稲葉さんと似ているようで全然似ていないと。
もし彼女も稲葉さんと同じような人間なら学校でもきっと復習と言う名の攻撃が加えられる筈だし、何より今こうして家にちゃんと居る訳だし。
「先輩…。」
「……。」
氷のように冷たい瞳で私をジッと見つめる。
「……もう、帰って下さい。」
「っ!でも!」
「あら、約束破るんですか?それとも今度はそうやって平気で嘘までつくんですか?」
「それは!」
あたふたとする私に見かねた彼が。
「分かってる、邪魔して悪かった、行こう!」
「え…。」
そう言って彼は私と一緒にここを後にするように腕を軽く引っ張る。
「茜ちゃん!」
「先輩。」
「っ!」
「私は貴女の事は許しません、勿論小鳥遊先輩の事も。」
「……。」
その目にいっぺんの迷いも見られなかった。
駄目だったか。
ううん、私たちに危害を加えて、挙句自殺何かしないだけマシだっただろう。
そう考え受け入れれば、少しはラクになった。
家を後にし、扉が閉まり、彼女の家を見上げる。
閉ざされたドアの向こうで今、彼女は何を思っているのだろう。
それは本人でしか分からない事だ。
茜ちゃん、信じてるから…。
次回、78話に続く。