もう一人の自分-5
「ねぇ、貴女。」
「誰!?…ひょっとして私!?」
「そう、私はもう一人の岬茜。」
……。
異空間に浮かぶ私ともう一人の私。
そいつはとても暗く沈んだ表情をしている。まるでこの世の全てが憎くて憎くて堪らないそんな憎悪に満ち溢れている。
「何、なんなのよ!」
私は意を決してもう一人の恐ろしい自分に強気に声を掛けた。
「私は今、謝りたいの!」
「誰に?」
「誰ってそんなの決まってるでしょ!先輩よ、柊先輩よ!」
「何を?…貴女が謝るような事、したっけ?」
「…したわよ、先輩は、私の事を信じてくれた、だから彼を、小鳥遊先輩を彼と同じバイト先に紹介した。」
「それで?」
「最初は単純に嬉しかった、意中の人に出会えて…、けど後になって知った、ううん!思い出したの!二人は付き合ってるって。」
「……。」
「それを思い出した時、二人には確かに心底頭に来た、よくも騙したな!よくも人の純粋な想いを踏みにじったなって。」
二人に悪気何て、さらっさらにないのに。
「けどそれは全くの誤解だった。二人は本当に私に良かれと思ったやっただけだった、それこそ私を信じて。」
あぁいう行動に出たのは信じてくれたから、大切な先輩を困らせてはいけないと、そしてあの行動こそその成功の何よりの証だった。
「…けど、貴女は結局その信頼を裏切った。」
「っ!そ、それは。」
私の触れて欲しくない所を情け容赦なくずかずかと責め立ててくる。
「誤解しないでね、私は別に意地悪で貴女にこんな事を言っているんじゃないの、悪魔で貴女自身の為。」
私自身の、為?
「えぇ、貴女はこの後彼女に謝るつもりなのでしょう?」
「そうよ、勝手に誤解して酷い事言って御免なさいって。」
「けど!それは果たして本当に正しいと言えるの?」
どういう意味?
「良い?向こうは貴女を騙したのよ、人の純粋な想いを踏みにじった。」
「そんな事は!」
「言い切れるの!?」
「っ!」
それは怒りと憎しみに飢えた言い草。
「相手の考えている事何て誰にも分からない、じゃー聞くけどその先輩がいつ?貴女に謝ろうとした?」
「それは…。」
「向こうが自分たちのした事に気づいてくれている、そんな虫の良い話があって?」
「うっ!」
次々と正論を嫌味ったらしく言い放つ。
「先輩の事、信じたければどうぞ。けどそれでまた裏切られたら。」
「裏切る何てそんな事!」
「けど先輩はその彼氏を貴女に会わせそして傷つけた、その事実は変わらないでしょ。」
「そ、それは。」
確かに…。
「ひょっとしたら貴女の思う先輩はそんなに良い人じゃないのかも、今だって反省何てしてないし、このままもっと彼氏さんをけしかけて貴女を傷つけてからかおうとしてるのかもしれない。」
「やめて、そんな言い草…先輩は。」
「それは御免なさいね、こんなのただの推測だからお気になさらないで♪」
「……。」
「けど貴女にはこれ以上気分を害して欲しくないの。」
良く言うわ。
「自分の過ちに気づき、謝罪したければどうぞ、けどそれで本当に良い訳?もし向こうが本当に私が言ったように全然自分がした事に反省の文字すらなく、貴女が彼女にした暴言を未だ根に持ってたら?」
「っ!」
「和解どころかそれで余計に距離が遠ざかるんじゃない?触れて欲しくもない話題に触れてきて機嫌を悪くし、そして貴女は自分が罪悪感に見舞われた事に腹を立つ。」
「…。」
「まっ私の忠告はこれまでね。後はどうするかは貴女次第。せいぜい賢い選択を選んで幸せになるが良いわ。」
彼女はそうやって不敵な笑みを浮かべ私の元から去って行った。
………。
私は、私は…。