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恋のMEMORY
【少年/少女 恋愛小説】

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もう一人の自分-4

「じゃ!その楽器三人で音楽室に運んで行って。」
「了解♪」

お母さんに何度もうるさく学校に行きなさいって注意をされた事もあり、私はとりあえず引き篭もりは抜け出して、一応は登校を再開した。

バイトもどうにか頑張って復帰する事に、無断欠勤した事を店長に深々と謝罪し、けれども彼とは一度も会ってはいない、ううん会ってはいけないの、ゆえにシフトを多少強引に彼のとずらしてもらったからだ。

学校では学年も異なるので当然彼女とも会わない、余程どっちからか会おうと接近しない限り顔を合わせる事もない。

部活だって本当はリスクがある事くらい百も承知だ、当然放課後この部室へ足を運ぶとあの彼女と出会う。つい前までは部室で彼女の顔を目にするだけで気分が舞い上がり、すぐさま掛けつける、というのに…。

今じゃ柊先輩が来るのをまるで恐れている、自分で原因を作り自分から彼女の居る部活へと足を運んでおきながら。

引き篭もりを止め、学校にも来た、シフトを変えたからと言って辞めるなり何か理由をつけるなりしてしばらく休む事も出来る、なのに態々それでも絶対会わないと言い切れないバイトにも出て、学校でもほとんど会わないし口も聞かない、部活だって出れば高確率で彼女と関りはある筈、…だからと言って別に二人にちゃんと謝る決心がついた、訳でもなく…。

今だってあの二人と会うのが気まずくて仕方がない、それなのに!

…きっと私は心の奥底では何かを期待しているのだろう、彼女の方から声を掛けてくれるそして例の話を切り出してくれる。小鳥遊先輩だって、ある日突然呼び出されてそこから例の問題の件について話しだしてって感じで。

バカだなぁー私、そんな虫の良い話、こんな図々しい事考えたら十中八九ロクな目に遭わない、そうじゃないでしょ!私が!自分の方から声を掛けないと。

私だってこんなの嫌だ。折角出会えた彼女と、こんな風になる何て、早く仲直りしたい、早く声を掛けて謝りたい「勝手に解釈して酷い事言って本当にゴメンなさい!」って。

私のせいで柊先輩も小鳥遊先輩も今頃困惑してる、ううん!きっと傷ついてる、私何かのせいで…。

柊先輩は私に色んなものをくれた、独りぼっちで灰色の学校生活に光を灯してくれた、私にとって大切な人。

そんな人を私の暴走で困らせて、……もしも、もしもそのせいで何事にもやる気が出なくてそれで、それで…。

大切な人の悲しい横顔が嫌でも頭に浮かぶ。

やめて、そんなもの私に見せないで。

消えて、消えて、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ!

早く

早く、言いたい!

大切な人を傷つけたくない。

早く仲直りしてまた一緒に演奏見てもらって、部活や授業の近況報告をあのドーナツ店で語りたい!

こうして同じ部員と楽器を持って部室に行くため、廊下を渡るこの時間がうっとおしくて仕方がない。

楽器なんか他人に少しばかり押し付けて、先輩の元に駆け寄りたい。

そう思っていると…。

「あっ!」
「っ!」

その人は私の頭の中ではなく、現実として目の前に写り。

「あー柊先輩お疲れさまでーす!」
「さまどぇーす♪」

私と同学年で先ほどから楽器を共に運んでる彼女たちが先輩である彼女に挨拶する。

この日は三年生全員テストの関係で休みだそうで。

「……あ。」
「…。」

私に何かを言いかけようとする柊先輩。

その光景がいまいち飲み込めない横の二人が頭上に?マークを浮かべ。

「柊先輩、この後デートですか?」
「えっ?」

私と柊先輩の今の状況を知る由もない横の女子の一人が空気も読まずに質問をぶつけてくる。

「とぼけても無駄ですよー、私聞いちゃったんですから、先輩が彼氏さんに水族館デートを誘われた事を。」
「いいなぁー、何か既にチケットまで用意してくれたんですってね、良いなぁー。」
「い、いやぁーあれはたまたまでぇー、バイト先の。」

分かったから、彼女は私に用があるのよ、その談笑は後でいいでしょう。

若干のイラつきを感じつつも、どうにかすぐに会話を収まり。

「いっけない、そろそろ部室に戻んないと。」
「じゃ先輩、また!彼氏とのデート楽しんで。」

ようやく切り上げてくれて。

「ね、ねぇ!」
「ん?なんすかー?」
「あっ、じゃなくて茜ちゃん。」

いちいち横やりを入れてきて、いっそ殺しちゃおっかなー♪

……それはさておき。

「あ、あの。」
「……。」

ようやく来た。

私は顔をあげ、彼女と目を合わせる。

「その、私は…貴女に。」
「先輩。」

さぁ言うんだ!

私の方こそごめんなさい、酷い事を言って…と。

「茜ちゃん、私…私ね。」
「先輩、私の方こそ。」

ようやく和解が成立する。

先輩も私に歩み寄ろうとしてくれている。ならば私だって。

「あっ、あのっ!……っ!」

その時、私の心がドクンッと悲鳴をあげた。

ドクッ



ドクン!

な、なにっ!

大切な先輩とようやく打ち解けようとしたその時。

私の中のもう一人の自分がこれから憑依しようとする亡霊の如く背後からやってきて。

そして呟いた…。



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