1 裕子-18
「おい。俺、木原と約束取り付けたぜ」
「そうか」
「だけど後で一緒に室野の家に行くことにさせられた」
「室野の家?」
「お前も後で来いよ」
「室野の家なんか行きたく無い」
「まだ大人になりきれないんだな」
「どうして?」
「厭な奴でも付き合っておくのが大人っていうもんだぜ」
「それじゃ大人になりたくない」
「俺な、婚約者が文化祭見に来るんだ」
「それじゃ木原はどうするの?」
「だから親父に頼んで一緒に来て貰うんだ。1人で来たら俺が送ってかないといけなくなるだろ」
「そうか」
「お前は誰も来ないの?」
「姉さんが来ると言ってた」
「え? 姉さんが来るのか」
「うん」
「俺に紹介しろよ」
「紹介しなくても知ってるじゃないか」
「だから一緒にお茶を飲みに行くとか、そういう機会を作れっていうこと」
「そんな暇あるかな?」
「暇なんて作ればいくらでもあるんだ」
「それじゃそうする」
「小山君お姉さんが来るの?」
「うん」
「私にも紹介して」
「姉さんもそう言ってた」
「そう言ってたって?」
「大和田さんと田宮さん紹介しろって」
「わあ光栄ね」
「田宮はどうしたの?」
「さっき帰ったのよ。やっぱりお母さんの具合が良くないんですって」
「そうか」
「でも明日はカメラ持って絶対来るからって」
「そうか」
「カメラって何?」
「写真機」
「馬鹿。お前に聞いてんじゃないの」
「うん、記念の写真を撮っておこうって話したの」
「こいつと?」
「うん田宮さんと3人で」
「そうか、俺もカメラ持って来よう」
「粕谷君は誰かとデートするの?」
「うん、木原が俺とデートしたいみたいだから」
「木原さんとデートなんてやったわね」
「だからカメラ持ってこないと。いいこと聞いた」
「私の写真も撮ってくれる?」
「あん? まあいいけど1枚だけな」
「あらぁ、随分ケチなのね」
「粕谷は大和田さんのこと色気が無いって言ってた」
「え?」
「おい」
「粕谷クーン、もう1回衣装合わせするから来て」
「ホーイ。それじゃ俺は失礼する。木原嬢がああ言ってっから」
「粕谷君は高校生で色気だなんて言ってるの?」
「あいつ女慣れしてるから」
「小山君は女慣れなんてしたら駄目よ」
「大和田さんは姉さんと同じこと言うんだな」
「お姉さんもそう言ってたの?」
「うん」
「いいお姉さんみたいね」
「全然」
「お姉さんに会うの楽しみだな」
「何で?」
「だって興味があるもの」
「どうして?」
「どうしても」
「大和田さん、姉さんがいないからじゃないか?」
「ああ、そうね。そういうこともあるかも知れないわね」
「姉さんがいると口うるさい母さんが2人いるみたいなもんなんだ」
「あら、そうなの?」
「うん、しょっちゅう僕の部屋来て検査するんだ」
「何を?」
「ナイフ持ってないかとか」
「ああ、私も弟の部屋調べたことあるわよ」
「姉さんってみんなそんなことやるのか」
「ええ、姉としての務めだから」
「僕の姉さんもそう言ってた」
「そうでしょう、年上だと大変なのよ」
「でも僕は妹の部屋を調べたりはしないな」
「それはしなくていいの」
「そうか?」
「女の子はナイフ隠してたりしないでしょ?」
「そうか、そうだな」
「今日は田宮さんいないけど2人で食べに行く?」
「うん」
店に行くと室野芳恵が1人でラーメンを食べていた。