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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-47


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 その昔は鄙びた商店街だったのだろう。酒屋などは造りが古く、緩やかに歪んだ極太の梁が漆喰の中に食い込んだりしている。近代的なマンションがあったかと思うと、地蔵様が辻に立ってたりする。東京というのは、けっこう部分的に極端に田舎なのだ。「都市計画」とかと関係なく、虫食いのように近代化が進むけど、その隙間に江戸時代から続く古い物が残される。

 そんな東京が僕は結構好きだ。

 目指したのは、チェーン店とは言え、そこそこの規模の書店。
 「本屋さん」というものは、いつでも僕のワンダーランドだ。僕はここで、興味と知識を吸い込み、副産物として大量の時間を消費する。つまり、サイテーな今の状況には最適の空間なのだ。
 自動ドアを通り抜けるときに風が舞い上がり、僕のワンピースがちょっと危ないぐらいまでめくれ上がり、髪の毛が逆立ち渦を巻いた。たちまち店内中の視線が僕に突き刺さる。慣れで、ちょっと身繕いをし、華麗な仕草で髪を纏める。それから、ほんのちょっとだけの照れ笑い。僕もやるようになったもんだ。

 どこの書店でもそうだけど、コミックス三分の一、文芸四分の一、雑誌四分の一、育児や趣味・資格関係五分の一。全部合計しても決して「1」にならないのが書店の真実であり宿命である。
 とりあえず、雑誌コーナーへ。適当に回ると銃器の専門誌があったので、流し読みする。ほう。V10。小型オートマチックのスライド上部の左右に解放部があり、バレル自体に左右に合計10個の穴が空いていて、小型ハンドガン特有のヘッドアップを防ぐと。でも、試射中に弾頭の破片がサングラスに当たったというのは洒落にならない。釣りの雑誌をやっぱり読み流す。どのルアーも美しい。頭部に切れ込みがあって引くほどに沈み込むクランクベイトは読んでいるだけで指に水の抵抗を感じる。そろそろ夏場だからさすがにワームの広告は少ないなあ。でも、やっぱり基本というか元祖というかスプーンにロマンを感じる。それにしても同じ釣りでもルアー派をフライ派は軽蔑したりするのは納得いかないなあ、などと考えたりしていたら、背中に人の気配を感じた。

「君がピストルや釣りに興味があるなんて、まったくもって不思議だなあ。美しさに加えてミステリアス。ますます魅力的だよ」

「…昨日の今日じゃありませんか。あなたには恥じらいという物が欠けているようです」

 郁夫は自分のトレードマークのように照れくさそうな微笑みを浮かべる。少し垂れ気味の目が奇妙にセクシーだ。

「いや、謝りたくてね。僕は一度そう考えると、居ても立ってもいられなくなる質で。無茶だなあとは思うよ、自分でも。黎明学園の寮の改装だって聞きかじった情報だし、そうしたら君はどうするだろうか?と考えた答えがこれ。僕、冴えてない?」

「そりゃ冴えているでしょうよ。陰謀に荷担するぐらいだから」

「……陰謀って…僕は兄に命令されたことには逆らえないんだ。だから、今日が初めてだよ? もう会うなって釘を刺されたのに、こうやって君と会っている。知られたら、良くて二、三日の安静、悪かったら入院だもの」

 僕は改めて郁夫を見上げる。

 白いオムのTシャツに紺のパーカー、ダメージドジーンズはヴィンテージみたいだ。足下はやっぱりこれも古いモデルのナイキと、昨日とは正反対にカジュアルだ。

「だから、誤解を解くのと謝りたいから、それも兼ねてお茶にしない? 近くにちょっといいお茶を集めた店があるんだ」

 僕は笑いを堪えることが出来なかった。

「その『ちょっといい店』のコレクションを僕にも分けて欲しいな」

「そりゃ、喜んで」郁夫は心から嬉しそうにステップを踏んだ。

「でも、ちょっと待っててね、一通り目を通すから」

 詩音がまあいいかな、と思った時には一時間と35分が過ぎていた。郁夫に言わせると一時間37分と40秒だったそうだけど、こういう場合、明らかに僕の方が正しい。

 だって僕は「絶世の美少女」なんだから。


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