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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-32


23

 寮の屋根に雨音が響いている。
 道から寮の扉までの間に、けっこう濡れてしまった。
 寮母さんはふと筆を止めて、僕を見て驚嘆の表情を浮かべた。考えてみると、この人の表情という物を初めて見た。

「すっごい素敵なピアスね。美貌が二乗になるわ。…ピアスとかイヤリングなんて、ただのオモチャだと思っていたのに。アーチストとしては考え直さなくちゃいけないみたいね。」

「綿星は帰ってますか?」

「かなり早くにね。疲れるだろうからねえ」

 僕は一歩寮母さんに歩み寄る。「なんで『疲れる』なんて知って居るんですか」

 寮母さんは珍しく筆を置くと、腕を組んで僕を見つめた。

「名前を紹介してなかったわね。私は草冠衣良。イライラの衣良と申せましょう。ついでに言うと44歳で離婚三回。ちなみにシカゴとモンパルナス、最後が日本」

「草冠の一族って事ですか」

 寮母さんはいひひひひ、と笑う。

「先代が発展家でねえ。いちごの爺ちゃんとは腹違いよ」

 僕は身体中から力が抜けていった。

「酒、ありませんか」

「おや?いける口かね。どんなのが好みだい?」

「飲んだら死ねそうな強いやつ」

「じゃ、ストロチワナヤの60%でいくか」

 寮母さんは冷蔵庫から霜の降りかかったボトルと、グラスを二つ出した。

「二杯目にはビターを垂らしてくれ」

 寮母さん──いや、衣良さんはけらけらと笑った。

「いかした台詞だねえ。モンマルトルの酒場で良く聞いたよ」

 ショットグラスの中に、とろりとした液体が満たされる。僕は一気に飲み干した。
 瞬間的に酔いが回る。身体中から溢れ出す快感に身が蕩けそうだ。
 二杯目を注ぐ衣良さんは、棚から小さな小瓶を出して、スポイトになった蓋から一滴グラスに垂らした。

「見た目はどうでも、あんた本物の男だね」

「男って、なんですか。僕はもう判らなくなっちゃいました」

 酒が入ると、妙に冷静になるのが僕の酒癖だ。衣良さんは油絵の具で汚れたエプロンを脱ぎ、胸の大きく開いたシャツを覗かせる。カウンターに両肘を突いて頬を包むその姿は結構セクシーだ。

「あんた、バイセクシュアル?」

「いえ、健全なホモセクシュアルです」

 ふう、と衣良さんはため息をつく。「何処の国でも同じね」

「何が同じなんですか。見た目も社会的にも女である実は男のホモセクシュアルなんて居るんですか」

「そりゃ、居るわよ。ただ、あんたみたいに極端に美麗なのは、世界中を旅した私でも初めての経験だけど。まったく、メフィストフェレスと契約でもしない限り、天羽君みたいのはあり得ないわ」

「そりゃまた嬉しい限りのご意見で」

 雨音が激しくなる。雨の音というのは不思議な物で、奇妙に会話を気怠くさせるものだ。五月の若葉の放つ香りが一層それらを際立たせてしまう。
 僕はまた「漠然とした不安」に取り憑かれる。

「僕が世界から消えても、ほとんど誰も悲しみませんよね。男であったか女であったか解らない不遇で希薄な存在ですから。綿星の「力」があれば、「僕が最初からいなかった」事にすることも出来るんじゃないかな」
「そりゃあ、綿星にとって迷惑もいいところだ」

 衣良さんはショットグラスを飲み干して、カウンターに落とす。

「天羽はあまりにも知らないからね。もちろん、知らせるつもりも、誰もいないだろうけど。知らないで死んで行くのはこの上なく幸福なのよ」

「誰が何を隠しているのですか?」

「誰も彼もがあなたを騙しているって言った方が正解ね」

 ストロチワナヤが豪快に効いてきた。

「僕、死ねるだけの過量服薬が出来ますけど」

「面倒は私の迷惑。どこか知らないところでそうゆうのはやってね」

 僕は茫然と鳴って階段を上る。部屋に入ると服を脱ぎ散らかして(ブラジャーが凄くめんどうなんだな)全裸で布団に倒れ込んだ。

 深度600、700、800、1000、1100…圧搾深度に到達。


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