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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-18


「カーヴド・エア」

「かーあぶどえあ?」

「それにプロコルハルム、ルネッサンスのアニー・ハズラムは最高だね」

 イージスは口をパクパクなんとか復唱しようとしている。まあ、潜水艦キラーとしてはイージス艦は最強だけどね。でも、相手によるよ。
 僕はわざとらしく失望したように腕を下ろす。失意の美少年を演出。

「でもね、本当に探しているのは音楽じゃないんだ」

「何を探しているのですか?」僕は妖艶に(多分)彼女の胸元から瞳の底までを見つめた。「それは素敵な女の子」

 イージスは「ひっ」と息をのんで耳たぶまで真っ赤になる。

「あの、あ、あの。私みたいなので良ければ、こ、こちらからお願いしたいです」

 僕は再び歩き出す。姫乃が言っていたのは、「最高の美少年を証明すること」であるからとにかく夢中にさせれば良いのだろう。もはや、イージスと僕の回りにはATフィールドがかかったようになっていて、遠巻きに大勢の少女が群れて、携帯のカメラ音とLEDのストロボが無数に光る。
 イージスは僕の速い歩幅に、駆け寄るように着いてくる。

「わたし、『くるみ』といいます。そう─呼んでくださいませんか?で、出来ればお食事など、いかがですか。素敵なお店知って居るんです」

「僕が探しているのは、君じゃないよ」

 「くるみ」は突然引きつったように凍り付く。

「あの、あの…」くるみは思い詰めたように俯く。「欲しいものなら、何でも差し上げます…遊びでもかまいません。……あなたのそばに居たいのです」

 「ごくり」と、音がしそうな緊張感が走る。

「残念だけど、僕は心に決めた人がいるんだ」思いっきり無邪気に笑って見せる。ギャラリーから大きなどよめきが響いた。

「誰ですか、その人」流石イージス。これだけ僕の目線を浴びて、ハニーボイスを耳にしても正気を保っている。
 この日飛びきりのウインクをしてあげる。

「僕の恋人で婚約者。その名前は大島姫子。今日はプロポーズの日」

 僕はハニーボイスを張り上げて、天井に向かって叫んだ。

「姫子、愛している。結婚しよう!」意味もへったくれもないけど、これで勘弁してくれ、姫乃先輩。

 なんと雑踏からついにテレビのクルーが現れた。プロだけに鼻はいい。
 充分だろう。これで「僕が最高の美少年」であることは証明できたし、「姫子との永遠の約束」も果たした。──が、この「くるみ」に刻んだ心の傷は深い。かなりの罪悪感が心を苦しめる。
「また逢った日には、友達として会おう」
 そしてなんと大胆にも「くるみ」の手を取って、キスをした。
僕は一足飛びにその場を離れる。マイクやカメラを振り切り、それから木の葉のようにクルーや女の子の隙間を泳ぐ、振り返ると「くるみ」は、床にしゃがみこんで茫然としている。多分、腰を抜かしたのかも知れない。
 自動ドアを出て、回りを見回したとき、凍り付いた女の子はどれだけ居たのか、一応360度スキャンして、目の前にしずしずと流れるように止まったベンツ6.9に飛び乗った。

「おみごと。執事さん」

「どういたしまして」ベンツの6.9は周囲の野次馬を充分に吹き飛ばす巨大な轟音を立てた。原宿から複雑に6.9は道を駆け巡り、気が付いたときには20号線を下っていた。
 僕はぐったりとシートに身を任せる。忘れたようにどっと汗が噴き出した。いちごがタオルを出してくれる。気が利くね、いちご。

「こんなもんで良かったでしょうか、姫乃先輩。供養にはなりましたか?」

 姫乃先輩は膝に頭を押しつけたまま、静かな──高慢ちきな先輩とは思えないような可愛らしい声で──嗚咽を漏らしていた。
 とりあえず聞こえなかった事にする。

「これで良かったんです」

 「え?」と思った。必要なこと以外話さない、実直な伊集院が、初めて自分の意志で話したからだ。
「姫子様は、いつもあなたの座っている助手席に乗っていましたからね。きっと、あなたに席を譲ったのでしょう」

 衛星関知。急速潜行用意。潜蛇マイナス20度加圧水型原子炉出力最大。メインタンク全速でブロー。レーダー360度回転探知作図プロッタへ。最大深度600へ着け。


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