悦子-20
「先生、何をなさっているのですか?」
「何をしていると思う?」
「分かりません」
「見ているんだ」
「何を見ていらっしゃるんですか?」
「何を見ているんだと思う?」
「分かりません。雑誌を見ていらっしゃるんでしょうか?」
「いや、君の肛門を見ている」
「厭ぁ。そんな所見ないで下さい」
「綺麗にすぼまった皺の間に何かくっついているように見えるんだ。これがひょっとするとウンコなんじゃないのかと思ってさっきから眼を近づけてじっと見ているんだが、良く分からない。クンクン嗅いでもみたが、何しろセックスしたばかりで、そこら辺一帯悪臭を放っているんで、匂いを嗅いでも分からない。ピンセットか綿棒ですくい取って虫眼鏡で見れば分かるんじゃないかと思ってる所だ」
「イヤー、お願いだからそんなことしないで下さい」
「しかし僕のベッドだからな。ベッドにウンコの塊を落とされでもしたら堪らない。ちっちゃいけども塊は塊だからな」
「そんな物ではありません」
「ほう。ウンコでは無いと言うのか。何故分かる。指ですくって舐めてみたのか?」
「先生の悪趣味。もう嬲るのはその辺にして下さい」
「嬲る? 親切に観察してやってるだけじゃないか。触ってもいないのに嬲る? 見てるだけじゃないか」
「もう縛めを解いて下さい」
「そうは行かないぞ。こうして君の開ききった性器を眺めながら酒を飲むんだ」
「先生は私を辱めて楽しいのですか?」
「辱めている? 女の性器は母性の源だろう。母性の権化が母性の源をさらけ出して何が恥ずかしい」
「先生は私が先生の母性になるなどと生意気なことを申したので怒っていらっしゃるんですか?」
「別に怒ってはいない。母性の本体をじっくり観察すればより良い短歌が出来るに違いないと思って探求しているんだ」
「それではご自由になさって下さい」
「短歌を持ち出せば何でも許されるんだな」
「そうではありません」
「それじゃ何だ」
「何を申しても先生はやりたいことをなさるに決まっているから諦めたのです」
「ふん。良く分かってるじゃないか。うるさいから猿ぐつわしてやる」
「もう喋りませんから、お許し下さい」
「口を開けろ。ほら、こうしてこれを突っ込んで、その上から縛ってやる」
「・・・」
「何を入れて何で縛ったか分かるか?」
「・・・」
「答えないのは反抗してるのか? あ、猿ぐつわしていては答えられないか。それでは教えてやる。君のパンティと僕のパンツを一緒くたに突っ込んで、その上から君のパンストで縛ったんだ。口から鼻にいい匂いが抜けて行くだろう」
「・・・」
「これからちょっと面白いことをやってみるけども騒ぐなよ。と言っても騒げないか」
「・・・」
栄一は書道に使う筆を出して、悦子の伸びきった腕の付け根、つまり脇の下を擽った。悦子は縛られている体全体で身もだえ、鼻からも口からも言葉にならない声を出している。こんなに激しくもがくとは思わなかった。よっぽど擽ったいのだろう。言葉にはならなくても激しく頭を振っている様子から「やめて」と言っていることは分かる。分かるけれどもやめはしない。
子供というのは残酷なもので、昆虫を捕まえて1本ずつ手足をもいでいって昆虫がもがくのを見て喜んだりする。今栄一は正にそれと似たような喜びを味わっていた。子供がそんな残酷なことをするのは、昆虫の手足をもいでも紅い血が出ないから残酷なことをしている感じがしないということが1つの原因である。擽られるのは痛いことをされるよりも本当は苦しいのかも知れないが、血が出たり肌が紅くなったりする訳ではないので、いくらもがいてもやっている方は大して悪いことをしている気分にならない。