妙子2-49
「どうしたの? 又仕事で儲けたの?」
「そうじゃない。次郎という奴を呼べ」
「ジロー?」
「ウェイターの次郎だ」
「ああ、その次郎ちゃんか」
「そうだ」
「もうとっくの昔にやめたよ」
「何?」
「どうして? 次郎ちゃんに何か用なの?」
「ああ。俺を襲ってたのはあいつだ」
「次郎ちゃん?」
「ああ」
「何で?」
「さっき、俺を以前襲った奴を見かけたんで、締め上げたんだ。そうしたら次郎に頼まれてやったと言った」
「何で? 何で次郎ちゃんがそんなことするの?」
「お前のことだったのさ」
「何が?」
「俺が泣かせた女というのはお前のことだったんだ」
「え?」
「俺と別れてお前、その次郎という奴と毎日飲み歩いてたって言ってたじゃないか」
「うん」
「そいつはお前のことが好きだったんだ」
「え?」
「分からなかったのか?」
「分からなかった」
「それじゃ何でお前に付き合ってると思った?」
「私が払うからタダで飲めるからだと思ってた」
「お前は鈍いな」
「あっ、そうか」
「何だ?」
「そう言えば思い当たることがあった」
「そうだろ」
「研がお寿司食べに連れてってくれたことがあるでしょ」
「ん?」
「ほら。ゴムのパンツ3つも買ってくれた時のことよ」
「ああ、久しぶりに会った時のことか」
「うん」
「それがどうした?」
「あの翌日は私仕事を休んだの」
「そうだったな」
「それでその又翌日には仕事に行ったの」
「そうだったな」
「そしたら次郎ちゃんが『店が終わった後一緒に食事してくれませんか』って言うの」
「ほう」
「あの日研は仕事で朝まで帰らないと言ってたから、まあいいやと思ったの」
「それで一緒に食事したのか」
「いけなかった? 次郎ちゃんに誘われたのなんて初めてだったし、世話になったと思ってたから」
「いや。誰と一緒に食事しようと、それくらいのことは構わん。それで次郎と一緒に食事してどんな話をしたんだ」
「妙子さん」
「ナーニ?」
「あの男又来てましたよね」
「どの男?」
「一昨日来たでしょ? 以前良く来てた男ですよ。フラレタと言ってたのは、あの男のことでしょう?」
「ああ。研のこと?」
「そうです。研という名前でした」
「それがどうしたの?」
「縒りを戻したんですか?」
「うん。戻っちゃった」
「うん、戻っちゃったって、そんなに単純に喜んでていいんですか?」
「どうして?」
「だって同棲してすぐ浮気したんでしょ?」
「久美ちゃんのことか」
「そうですよ」
「あれは私の誤解だったの」
「まさか」
「どうして?」
「いや。どうして誤解だったと分かるんです?」
「研が説明してくれたから」
「妙子さん」
「うん?」
「男は浮気したって、浮気したなんて誰も認めませんよ」
「次郎ちゃんもそう?」
「いや、僕の事はどうでもいいんです」
「どうして?」
「今は研という男のことを話してるんですから」
「うん、そうだった」