妙子2-46
「あー、研、帰ってる」
「ああ、今帰った」
「研、研、研」
「おい。それじゃ浴びせ倒しだ」
「生きてる。生きて帰ってくれた」
「死にはしない。話をしに行くだけだと言っただろ」
「もう研のことが心配で心配で、お客さんの話なんか聞いてらんなかった」
「だから心配する必要はないと言っただろ」
「だって、死んだら後で後悔するからバイブ付きのパンツ穿いて喜ばせておけって言ったじゃない」
「そうだったかな?」
「惚けて」
「さあ。子供じゃあるまいし何時までも抱き付いてないで放してくれ。お前太って重くなったから潰れちまう」
「放さないよ。このままずっと放さないよ」
「そんなに心配したのか?」
「したよ。お客さんと話していても研のことばかり考えてたから、トンチンカンな答えばかりしちゃって、『どうしたの? 今日の妙ちゃんはおかしいよ』って、お客さんに何度も言われちゃった」
「そうか」
「ぼんやりしてたから図に乗ってお尻に触ったりする奴もいて、大分長いこと気が付かないで触られちゃったよ」
「おっぱいじゃなくてケツだったら触られてもいいさ」
「いいの?」
「水商売なんだ。それくらいサービスしてやれ。服の上から触っただけだろ?」
「うん」
「それならいい」
「おっぱいは?」
「それは俺のもんだから、触らせてはいけない」
「そう言うと思った。研はおっぱいが大好きだからね。こうして上げる」
「おい。おっぱい押し付けてくるのは嬉しいが、いい加減にして着替えろよ」
「うん」
「おや?」
「何?」
「お前、バイブ付きパンツ穿いてんじゃないか」
「うん」
「病み付きになっちゃったのか?」
「違うよ」
「それじゃ何で?」
「研の無事を祈って何かしたかったの。だけど私、神様信じて無いから拝むことも出来ないし。それで、研があんなに喜んでたこのパンツ穿いて仕事してれば、研を陰ながら応援してるっていう気持ちになれると思ったの」
「なるほど。それでスイッチは入れてたのか?」
「スイッチなんか入れたら仕事出来ないよ」
「そうか。お陰で俺は危うく死ぬところだった」
「本当?」
「しかしスイッチは入れなくてもそれを穿いててくれたから危うく助かった」
「どうだったの? 詳しく話してよ」
「まあ、一緒にシャワーを浴びよう」
「うん」
「やっぱり喧嘩になったの?」
「いや。危うく死にそうになったというのは嘘だ。話だけで終わった」
「それで話は付いたの?」
「いや。そもそもあいつは関係なかったということが分かった」
「え?」
「あいつが若い者使って襲っていたというんではなかった」
「俺は知らないと言ったの?」
「ああ」
「でも、そんなの俺だよなんて正直に言わないんじゃないの?」
「それはそうだ。しかし嘘を言ってるかいないかは分かる」
「嘘ではないと思ったのね」
「ああ。久美とはビジネスで会ってるだけで、久美のお客ではないということだった」