妙子2-38
「良かった。でも凄いでしょ」
「何が?」
「こんなの着て歩いてる人はいないよ」
「いるから売ってるんだろ」
「こういうのは外着て歩く服じゃないんだよ」
「何処で着たっていいんだ」
「そうだけど」
「おい。いきなりあれに乗るのか?」
「どうして?」
「まだ酒が残ってるからあれは後にしないか」
「でも待ち時間45分て書いてあるよ。並んでるうちに少しは目が覚めるでしょ」
「そうか」
「2人で来ると並んで待ってるのも楽しいんだよね」
「そうか? 折角楽しいと言ってるのに悪いんだが、俺はあそこのベンチで横になってちゃいかんかな?」
「まだ眠いのか。それじゃいいよ」
「ああ。済まんな」
「それじゃこれ持ってて」
「携帯電話か? 何で?」
「順番が来たら鳴らして起こすから」
「お前の電話を俺が持ってたら電話出来ないじゃないか」
「後ろか前の人に借りるから」
「そうか」
「オッ、オッ。電話が鳴ってる」
「ケーン」
「おう。もう順番来たのか」
「早くー」
「何だ、こいつら」
「絡まれてんの」
「絡まれてる?」
「本当にこのオッサンが連れだったの?」
「そんなの放っといて俺達と楽しもうぜ」
「オイオイ。僕達」
「僕達?」
「子供は子供と付き合ってればいいんだ」
「年寄りは年寄りと付き合ってればいいじゃん」
「俺はまだ若いんだ」
「彼女には年寄り過ぎるよ」
「あんた達、研を怒らすと恐いよ。喧嘩がこの人の商売なんだから」
「商売? ヤクザだっての?」
「俺達も喧嘩ならプロみたいなもんなんだぜ」
「坊や。子供の喧嘩と大人の喧嘩は違うんだ。うるさったいから、もうあっちに行け」
「ナニー、子供扱いすんな。コノー」
「ほれ」
「ギャー」
「イデー」
「何したの?」
「目を指で突いてやったんだ」
「大丈夫なの?」
「ああ、1時間くらい見えなくなるだけだ」
「あいつら、じゃれてるフリして抱き付いて来たんだよ」
「その服装で1人だから誘われたがってると思ったんだろうな」
「だからあそこに寝てるのが連れなんだって言ったのに」
「それでも絡んで来たのか」
「うん。私が適当な嘘言ってると思ったみたい」
「恐かったか?」
「ううん。人は多勢いるし、研だってそばにいるんだから、恐くはなかった」
「それじゃちょっとしたハプニングで楽しかっただろ」
「楽しくはないよ」
「誰に電話借りたんだ」
「あの金髪の奴」
「絡んで来た奴に借りたのか」
「うん」
「度胸があると言うか、ズレてると言うか。お前って楽しい奴だな」
「そう?」
「30分ばかり寝たから、かなりスッキリした」
「あと15分で乗れそうもない感じだけどなあ」
「あれに乗って何処かに用事で出かけるって訳じゃない。こうして2人で並んで待ってるのも遊園地の楽しみというもんだ」