妙子2-3
「ウィスキーなら3本貰ったからプレゼント出来るんだが、飲まないんではな」
「ウィスキーは要らない」
「全然飲めないのか? ビールやカクテルも駄目か?」
「うん」
「まあ女の酔っ払いは始末におえないから、飲まない方がいいか」
「女の酔っ払いは見苦しいわ」
「お前は飲まないから、余計そう思うんだろう。少し酔って顔が赤くなってるくらいなら可愛いくていいもんだ」
「そう?」
「それに酔ってる方が口説き易くなるしな」
「別に酔ってなくても口説いていいのよ」
「それじゃこの後一緒にメシを喰いに行かないか?」
「何ご馳走してくれるの?」
「何でもいい」
「お寿司でもいい?」
「寿司が好きなのか?」
「うん。大好き」
「それじゃ寿司喰いに行こう」
「ワァー嬉しい。私の知ってるお店でもいい?」
「何処でもいい」
「それじゃ、美味しいお寿司屋さん知ってるから」
「そうか」
「研の家はどこ? 近く?」
「家は無い」
「家は無い? それってどういうこと?」
「家が無いということだ」
「そしたら毎日何処に寝てるの? 外に寝てるの?」
「まさか。事務所に寝てる」
「事務所はどこにあるの?」
「駅前の山野ビルだ」
「いいなあ、近くて」
「場所はいいが風呂も台所も無い」
「お風呂に入る時は銭湯に行くの?」
「此処らには銭湯は無い。風呂に入りたい時はサウナに行く」
「お金がかかるわね」
「その代わり家賃が要らないから、毎日サウナに行ったって安い」
「そうか。食事は全部外食?」
「偶に弁当やカップラーメンを喰うこともあるな」
「手料理が食べたくなったりしない?」
「そういう時は小料理屋に行く」
「何で結婚しないの? 奥さんいないんでしょ?」
「女房があって家が無いということは無いだろ」
「うん、だから独身なんでしょう?」
「そうだ」
「何で結婚しないの?」
「相手がいないからだ。お前結婚してくれるのか?」
「えっ?」
「何を驚いているんだ」
「いきなりそんなこと言うからよ」
「お前年はいくつなんだ?」
「21」
「若いな」
「まだ結婚するのは早すぎる?」
「そんなこともないだろうが、急ぐこともない」
「研は結婚したことはあるの?」
「結婚したことはないが、長く一緒に暮らしたことはある」
「どっか他所の土地で?」
「いや。何で?」
「だって今までお店に来たことないから」
「ここはヤクザが多いから避けてたんだ」
「ヤクザなんて1人もいないよ」
「お客のことさ」
「だから、ヤクザのお客さんはいないよ」
「そんなこと、どうして分かる」
「だってお店の入り口に『暴力団関係者お断り』って書いてあるもん」
「書いてあったって入って来るさ」
「そうしたら断るんじゃないの?」
「帰ってくれって?」
「うん」
「お前本気でそう思ってたのか?」
「うん。あれって嘘だったの?」