妙子2-13
「何やってんだ」
「肩揉んでんの」
「肩揉まれると眠気が覚めるんじゃなくて眠くなると言うんじゃないのか」
「眠くなっちゃった?」
「いや。お前のは揉んでるんじゃなくて撫でてるようなもんだから眠くはならない」
「でも凄い凝ってるね。カチカチに固いよ」
「俺は肩凝りとは縁が無かったんだが、事務所に寝るようになってから肩が凝るようになった。ソファーで寝るというのはやっぱり良くないんだな」
「前から家は無かったの?」
「いや。以前はアパートを借りていた。だけどその頃は付き合ってた女がいて殆ど帰らなかったんだ。それで勿体ないから部屋を解約したら女と別れる羽目になった。皮肉なもんだな。それ以来事務所住まいだ」
「何で別れたの?」
「暴力をふるわれたからだ。女を見る目がないんだな」
「冗談でなく、何で別れたの?」
「フラレたんだ」
「何で? 浮気でもしたの?」
「いや。そいつの部屋に転がり込んだ訳だから暫くすると居心地が悪くなってな。部屋代払うと言っても受け取らんし。これは結婚でもしないといけないかと思ってそんな話をしたんだ」
「そしたらフラレたの?」
「1週間考えさせてくれと言って1週間後に別れたいと言われた」
「何で?」
「やっぱり結婚するなら普通の仕事の男と結婚したいと言ってた」
「それで研はどうしたの?」
「どうしようもないじゃないか。『ああ、そうですか』と言って別れたさ」
「でもその人、研の仕事を知ってて付き合ってたんでしょ?」
「そうだ」
「それならおかしいじゃないの」
「まあ何となく付き合ってる分にはいいけど、イザ結婚となるとやっぱりヤクザは厭だということになるんだろう」
「酷い話」
「そうでもない」
「どうして?」
「そういうのはヤクザやってることに伴うデメリットという奴だから仕方ない」
「デメリットって何?」
「不利益だな」
「研はさばけてるって言うより、サッパリし過ぎてるよ」
「そうか?」
「だって好きだから一緒に暮らしてたんでしょ?」
「そうだな」
「それなのにやっぱりヤクザは厭だなんて言われて『ああそうですか』なんて言うのはあっさりし過ぎてるよ」
「厭だと言う者を追いかけても意味は無いからな。ますます嫌われるだけだ」
「そうだけど、普通はそうするんじゃない。それでストーカーなんかになったりして」
「あれはプライドの無い男がするもんだ」
「そうだけど」
「折角遊園地に来たんだ。何か乗り物にでも乗るか?」
「うん。ジェット・コースターに乗りたい」
「あれか?」
「うん」
「大丈夫か?」
「何が?」
「小便漏らしたりすんなよ」
「しないよ」
「それじゃ乗るか」