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ケイの災難
【コメディ 恋愛小説】

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ケイの誕生-2

「さて、優しいお姉様が圭介君を起こしてあげましょうか……」
整った顔立ち故に気合の入ったその笑顔はあまりにも恐ろしく、智香は思わず顔を背け耳を両手で塞ぎその場にしゃがみながら「お兄ちゃん、ごめんね。智香じゃ奈津子お姉ちゃんを止められないよ……」と、心の中で詫びつつ逃避を決め込んだ。
その間、奈津子は自分の履いていたスリッパの片方を手に取り、大きく振りかぶり圭介の頭に狙いを定めその手を振り下ろしたのだった。
スパーーーンッッッ!!!
乾いた音が圭介の部屋に響き渡り、同時に奈津子が捲くし立てる。
「圭介っ!日曜なのにいつまで寝てるの!!さっさと起きろっ!!!」
熟睡していた圭介の頭を奈津子が手に持っていたスリッパが強襲し、圭介は痛覚と共に現実に引き戻された。
「いってーー!なんだよいきなり!!」
頭を抱えながら飛び起き痛がる圭介の横には笑顔ではあるが気迫に満ちた奈津子がスリッパ片手に仁王立ちしていた。
「何か文句でも?圭介くん」
奈津子の顔は笑顔ではあるが、その言葉に籠められた気迫に圭介は背中に冷たいものが走るのを感じ抵抗できなくなってしまう。
「い、いえ、なにもありません。今日はどんなご用件でしょう?お姉様……」
恐怖のあまり思いっきり引きつった笑顔で返事をする圭介であったが、奈津子は満足したようで手に持っていたスリッパを履きなおし圭介の鼻に人差し指を突きつけた。
「圭介、あんたに大事な用事があるの。時間がないから今すぐ速攻で着替えなさい!」
奈津子は圭介から布団を剥ぎ取りベッドから叩き出し着替えるように促したが、圭介は訳が分からんとばかりに奈津子に問いただそうとする。
「奈津ねぇ、どーゆー事さ?全然訳わかんねえよ?」
圭介が口答えをすると同時に奈津子の眉がピクッとつりあがった。
「圭介。私に意見するなんて、あんた随分と偉くなったわねぇ…グダグダ言ってないでさっさっと着替える!!」
奈津子が語気を荒げると圭介は身の危険を感じ、すぐさまタンスから服を出し着替え始めた。
その間の圭介と奈津子のやり取りを智香は訳も分からずただただ呆然と見つめているだけだった。

更に40分後、圭介を連れ出した(拉致ともいう……)奈津子は急いで撮影スタジオに入り、状況を全然把握してない圭介をメイクに引き渡し、スタジオの隅にある喫煙所で一服していた。
「先輩、お疲れ様です」
にこやかな顔をしながら友美が奈津子に近づき声をかけてきた。モデルの件がなんとかなりそうなので安心したのだろう。誰が見ても安堵の笑顔って感じの友美である。
そんな彼女の笑顔は奈津子から見てもとても可愛らしく魅力的に映り、奈津子もつい笑顔になってしまう。
奈津子は煙草を吸いながら笑顔で友美に尋ねる。
「圭介は?」
「まだ途中ですけど、すごいんですよ。私、その気はない筈なんですけど「おねぇさまぁ」って甘えたくなっちゃう位に美人なんですよぉ」
微かに頬を染めながら友美が嬉しそうに話すのをみて奈津子は笑った。
「でも、友美だって圭介の写真を見てるから、アレを見るのは初めてではないでしょ」
友美の様子を見ながら、少し呆れた様な笑顔で奈津子は写真の圭介を思い出していた。
「でもでも、写真と実物は違いますよぉ。本物の圭介くんがあんなに美人さんになっちゃうとは思いませんでしたよ」
嬉しそうに力説する友美を見ながら本当にそっちの気に走らないことを切に祈る奈津子であった。


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