拷問-1
マーカズが顎をしゃくって背後の男を呼び込むと、アリサはぎょっとした。
その男は大きかった。
身長は2メートルを越えているかもしれない。
顔はすっぽりとしたマスクに覆われ、目の部分だけ切り抜かれていて素顔はわからない。腹は出ているものの、発達した胸筋と上腕二頭筋はかなりの大きさだ。
男は無言で革を両手の拳に巻きつけると、パンチを上から振り下ろした。
どかっ!といい音がした。
「うぐう…」
アリサは明らかに顔をしかめた。高い身長から振り下ろすパンチは相当効いたようだ。
男はなおも止まらない。大きくふりかぶって、もう一発腹へパンチを打ちこんだ。
ばちん!
「くふっ」
もう一発。
ばちん!
「ぐああ…!」
パンチはまだ硬い腹筋の表皮にとどまっているものの、打撃は確実にアリサに痛みを与えていた。
「処刑人、生ぬるいぞ」
部下に用意させた椅子に腰掛けて、にやにやとマーカズはアリサの苦悶の表情を眺めている。
アリサは歯を食い縛り、彼をぎらっと睨んだ。
「ぐうっ!」
その隙に次のパンチを叩き込まれ、顔を歪める。
処刑人と呼ばれた大柄の男は、手に巻いた革を外し、代わりに太い樫の棒を取り出した。
丸く削られたそれは見るからに頑丈そうだ。アリサはわずかに震えた。、
「怖いかい? アリサちゃん」
「な、なにをぬかす。屁でもない」
処刑人は腕を大きく振り上げると、一気に棒をお腹に振り下ろした。
どぼっ!!!!!
ついに彼女の硬い腹筋が、処刑人の打撃に屈した。
「うげええええええっ!!!」
太く重い樫材の棒は、深々と腹筋をえぐり、肉の内側にめりこんだ。
「くうっうう……」
アリサの表情が、初めて切なげな顔に変わる。それを見てマーカズは興奮している。
「はははは、ついにご自慢の腹筋が壊されたね。ねえねえどんな気持ち?」
「ふざけるな…この野郎…ぐえええええええ!!!!」
また重い棒が割れた腹筋に食い込んだ。
それをさらに三回繰り返すと、遂にうぷっとアリサは美しい唇から嘔吐した。
「げええええ…うえ…」
「アリサちゃん、仲間の居場所を吐かないならそれでもいい。わたしの配下にならないか。わたしは君のように頑固で頑丈な部下が欲しくてね」
苦しむアリサを見かねたのか、マーカズは意外な譲歩案を出してきた。
口からゲロを吐いて苦しんでいたアリサは、急に笑みを浮かべ、
「へっ、抵抗できない女を拷問して仲間になれか、あれだなあんた、俺のゲロ以下の男だな」
マーカズは顔を青くした。
好意をはねつけられ、完全に切れたようだ。