た-1
当時の2人にとって、この店での入社祝いはきっと奮発してくれたんだと思う。
それぐらい2人は俺の入社を喜んでくれて
俺も本当に嬉しかった。
幸せそうな2人と、その2人にいつもくっついている俺。
でも、そんな時間はそんなに長くは続かなかった。
「本当におめでとう〜!
信くんもついに主任なんだね〜」
俺が主任になることは、嬉しくもあり苦しくもあるんだろう。
それなのにお祝いしてくれてありがとう。
「俺ね?30歳なんだよ」
メインが終わって、デザートまでの穏やかな時間に
まだ飲み続けているワインの酔いも手伝ってそう切り出した。
「だよね。ビックリ。私も32だよ」
由布子さんは自分の時間を生きてはいない。
独りになってから時間が止まっているかのようだった。
表面上は明るく元気にふるまって
でも彼女は感情の時間が止まっている。
「俺ね。主任になったんだよ」
「うん。凄いよね〜。本当に凄い」
由布子さんは目を細めた。
ねぇ・・・
ココにいるのは俺なんだよ?
俺を見てる?
由布子さんの目には俺がちゃんと映ってる?