た-6
兄貴は由布子さんを名字の夏井から『ナツ』と呼んだ。
由布子さんは、誰も呼ばない、兄貴しか呼ばないその呼び方を凄く気に入って
そう呼ばれるとこっちが羨ましくなるぐらいの笑顔で答えていた。
兄貴は俺に甘くて
由布子さんが冗談で「兄弟愛に妬いちゃうわ」というぐらい俺に甘くて・・・
それでも冗談で
「ナツだけはお前に譲れない」
そう言ってたっけ。
兄貴。
譲ってもらおうなんて微塵も思ったことはないよ。
それだけ2人には見えない絆があったし
2人を見ていることが俺は好きだったんだ。
「ナツと呼ぶのは俺だけだ」
そう笑いながら、俺さえも、そう呼ぶのを許さなかった。
「由布子さんを『ナツ』と呼ぶ男はもうこの世にいない」
じっと見つめて辛い言葉を投げかける。
兄貴。ごめん―――
俺。今、サイテーの男だな。
兄貴だったらどうするんだろう。
いくらそう考えても、サイコーだった兄貴の足元にも及ぶはずがなく
俺は、自分を嫌いになる。
好きな貴女を苦しめている。
俺はそれだけで、自分を、キライニ、、、、ナレルヨ。