た-4
「信くんは残酷なことを言うのね」
「この日にきちんと話すって前から決めていたからね」
そう。主任になることが俺たちの中で一つの区切りだった。
「主任になったら結婚すると約束してたんだよね?」
「あの人・・・・何でも、信くんに話していたのね。
私がヤキモチを妬くぐらい仲のいい兄弟だったものね」
悲しそうに優しく笑う。
アイツにしか向けないその顔に、今もまだ嫉妬している俺がいる。
「主任になる前に兄貴は死んだんだよ。由布子さんちゃんと分かってる?」
「分かってるわ」
「もう、戻ってこないんだよ!」
「・・・・」
「もし、俺に兄貴を重ねているんだったら、もう会えない」
「・・・・」
「俺をきちんと見てほしいんだ。
彼氏の弟の信くんじゃない。独りの男として、信之として俺を見てよ」
「・・・・」
「由布子さんを『ナツ』と呼んでいた兄貴はもういないんだ!」