た-3
「俺はもう、乗り越えたいんだ」
「・・・・」
息を吐き出して声のトーンを冷静に戻す。
「俺は俺の人生を生きるためにもう一歩を踏み出してる。
そのための、主任の昇格だと思ってる。」
この言葉が、由布子さんにとってどんなに残酷なモノが承知している。
それでもこの言葉を言わない限り
俺たちは前へは進めない。
「俺が必要としている由布子さんは、恋人として、なんだ」
「・・・・」
いくら他の女の子と遊んだって
由布子さんが頭から離れない。
由布子さん以外を好きになれたらどんなにいいだろう。
誰も好きになれないのなら
由布子さんの事も好きじゃなくなればいいのに。
「由布子さんもいつまでも夢をさまよってないで現実に戻ってこいよ」
チャラチャラと遊ぶ女の子たちに呆れて
新田と洋子ちゃんが本気になれるような女の子を紹介してくれる。
その子たちをなんで好きになれないんだろう。
その子たちと付き合って、結婚して家庭を持てばいい。
仕事にも集中できるだろうし
独りの夜を眠れなく過ごすこともないだろう。
こんなレストランも2人で来て
いつの日か可愛い子供だって生まれるかもしれない。
何で俺は、この人じゃなきゃダメなんだろう。
目の前で、じっと黙りこむ由布子さんに視線を合わせる。