White chocolate valentine-4
彩音を寝かしつけ、亜里沙と2人ソファーに座っていた。すると亜里沙がさり気なく聞いてきた。
「友美先生と昔、付き合ってたの?」
そう至って穏やかに聞いてきた亜里沙だが、その表情に反して内心は穏やかではない事はすぐに分かった。きっと亜里沙は友美が俊輔の中学の同級生だと知った時からそんな疑いを持っていたのかも知れない。チョコレートを彩音が作れる訳でもなく、その殆どを友美が作ったであろうチョコレートを食べた時の様子を見てきっとただの同級生ではないのではないかと思ったはずだ。女はそういった事にはやはり敏感だ。どんなに愛し合う夫婦でもやはりそう言った不安は少なからず持っているのかもしれない。
「ん?フフっ…」
平静を保ち穏やかな笑みを浮かべつも動揺を隠せない瞳に可愛らしさを感じてしまった。
「あのさ、悪い。昨日、実はさ…友美と卓球して来たんだ。友美とはね…」
俊輔は友美と出会ってから昨日までの事を包み隠さず全ての事を亜里沙に話した。その言葉の全てに亜里沙は不思議と安心感を得た。きっとそれは全く嘘のない言葉であったからかも知れない。隠す事なく語られた真実に疑いの気持ちは全て消えてなくなった亜里沙であった。
「へ〜、そんな事があったんだぁ。」
落ち着いた瞳で笑みを浮かべてそう言った亜里沙。すっかり不安が消え落ち着いた様子であった。
「でも、キレイだよね、友美先生。」
過去の疑いが晴れた次には、これからの不安が生まれる。久々に再会した同級生と…という話はよく聞く話である。女から見てもキレイな友美に俊輔の気持ちはどうなのだろう…、そんな不安がありありと分かった。
「そうだねー。いい女になったなー。」
俊輔はわざと戯けた様子でそう亜里沙に言った。少しムッとした表情の亜里沙に俊輔はキスをした。
「俺の妻の方がもっといい女だよ。」
そう言ってニコッと笑う。少し頬を赤らめた亜里沙は照れを隠すかのように少しオーバーに胸を張る。
「当たり前じゃん♪私、いい女だもん♪」
「そーだねー。」
「何よ、その棒読みぃ。」
「ハハハ!」
「フフっ」
そこには愛し合う夫婦の幸せがあった。
「ハイ、バレンタイン♪」
亜里沙がすっと差し出したチョコレートを受け取る俊輔。毎年の事だしドキドキ感もない。しかしこの穏やかな幸せがとても心地良く感じるのであった。俊輔は中身を取り出し口に運んだ。
「いつもありがとう。美味しいよ?」
「ンフッ、どう致しまして♪」
俊輔にとって亜里沙に貰うバレンタインが一番幸せを感じるのであった。初恋の人からのチョコレートは俊輔が中学の頃に大好きだった甘い甘い味がした。そして今、口の中に溶けるチョコレートは少し大人の味がしたのであった。
亜里沙の温もりが、今、一番愛おしく感じる。
〈最終章 A version White chocolate valentine 終〉