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蛍の想ひ人
【女性向け 官能小説】

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-5


昼休み、午後イチのアポのために得意先へ移動する人や
手が空いた隙に食堂へ向かう人で部内は閑散としていた。
俺は机の上にある電話の受話器をあげ、記憶している番号をプッシュしようとして
一瞬息を吐き出した。

そんな俺を見て見ぬふりするようにしていた新田が
いつまでも番号を押し始めない俺に苦笑いをして
肩を叩いて
「昼飯に行ってくる」
そう呟いて席を外した。

新田なりの気遣いだろう。

早くしないと由布子さんも席を外してお昼を食べに行くぞ。

そう自分を奮い立たせ、由布子さんの会社の電話番号を押す。

そんなに大きくない会社は電話交換や受付にかからず
その番号は直接由布子さんの部署の番号で
数回の呼び出し音の後に会社名とともに由布子さんの声がした。

数秒で聞き分けられるその声は
愛しくて愛しくてたまらない相手の声で
もう何年、その声で俺の名前を呼んでほしいと願っているか知れない。

「加賀と申しますが」
念のためまず自分を名乗り、その後由布子さんの名字を言って
呼びだしてもらうセリフを言おうとしたところで

「信くん!」
と由布子さんが小さく声をあげる。

「どうだった?」
あ、ぁ。前に『今日』昇進の辞令が出るって言ってあったっけ。
そんな些細なことを覚えていてくれていたことがたまらなく嬉しくなる。




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