第5章 20年越しのキモチ-9
俊輔はそんな姿に体の中の緊張が一気に抜けた。
「悪かったなー!ついでに言っちゃうと、実はチョコレートももったいなくて食べられずにずっと大切にしまっておいたんだよ。」
「えっ…!?」
俊輔はまさにあの時渡したバレンタインチョコレートを手に持っていた。まさかの言葉に目が点になる。やはり俊輔は大切にする方向が間違っているようであった。
「だ、だって…美味しかったって言ってたよね…、確か…。」
「う、うん。で、でも開けたんだよ??開けたんだけど…初バレンタインチョコレートで嬉しくてさ。美味しそうだなーって思って。きっと美味しいに違いないって思って、食べたって嘘ついちゃったんだ…。な、なんなら今から食べるけど…。」
「よ、よしなよっ!?だ、だって20年前のでしょ!?考えなくてもヤバいって!!」
「…大丈夫じゃん?チョコレートって腐らないでしょ?」
「ダメだって、もぅ…」
本気だか冗談だか分からない俊輔に呆れた。
「さすがにチョコレートは大切に持っていてくれてありがとうって素直に言えないょ…。」
ただ嬉しい事は確かだ。自分との思い出を全て大切にしてくれていたような気がして胸が熱くなった。
「俺、許してくれとは言わないよ。ただ友美から貰ったものを簡単にポンポン他人にあげちゃうような真似は絶対にしなかったって事だけ分かってくれればそれでいいよ。」
真面目ながらも穏やかな顔でそう言った。もう友美には何の蟠りもなかった。20年間、心の中にずっと苦い思い出として残っていたものが、まるでチョコレートのように甘い思い出に変わっていた。それは俊輔も同じであった。
「お互い、あの頃は子供だったんだね。」
「そうだな…。子供だった。」
いつの間にか椅子に座る2人の距離が縮まっていた。もうお互いの体温が伝わってくるぐらいに体と体が触れそうだ。2人はまるで隣同士の机で授業中に先生の目を盗んで小声でおしゃべりをしていたあの頃に戻ったかのような錯覚を覚えた。
「友美…。」
「俊輔…。」
2人はお互いに推定初恋の相手を瞳に映していたのであった。
そして2人は…