第5章 20年越しのキモチ-8
「私の気持ちが詰まったボールペンかどうかは、私には分かるの。」
そう言って俊輔を見つめた。俊輔はきっと自分を慰めようとして言ってくれたのだろうと思った。そんな俊輔の前で友美はボールペンの先端を回し分解し始めた。
「?」
俊輔には意味が分からなかった。そして友美はボールペンの芯をゆっくりと抜き取った。そしてその芯を見つめうっすらと涙を浮かべたのであった。
「俊輔、ありがとう…。ずっと大切に持っていてくれたんだね…。ごめんなさい…、本当にごめんなさい…。悪いのは私の方だった…」
そう言って涙を浮かべながら微笑み、俊輔を見つめた友美。
「ど、どういう事…?」
俊輔が不思議そうにそう言うと、友美はボールペンの芯を俊輔に見せた。するとボールペンの芯の半分をクルッと覆い被せるように髪がセロハンテープで貼られていた。そしてその紙に何か文字が書かれている事に気付く。俊輔は目を凝らしその文字を声に出して読んだ。
「I LOVE YOU…、アイ ラブ ユー!?」
思わず声を張り上げてしまった。そこには間違いなく友美の字でI LOVE YOUと書かれていたのであった。
「恭子ちゃんが好きだった俊輔に告白するのが恐かったの、私。だから口には出来なかった。でもこのボールペンを俊輔の為に一生懸命選んだ自分の気持ちを俊輔に知って貰いたくてこれに想いを込めたの。俊輔はこのボールペンをきっと大事に使ってくれるって信じてたから、そのうちインクがなくなって交換する頃にきっと俊輔がこれを見てくれる事を信じて自分の気持ちを書いて貼り付けたの。へへへ、それがまさか20年も後になって伝わるとはね…。」
「友美…。」
まさかこのボールペンが恋愛の成就の為ではなく和解の為に使われる事になろうとあの時友美は夢にも思わなかった。しかし恋愛は成就されなくても、20年後にこれほど幸せな気分になれたのなら、友美はあの時の自分の勇気を褒めてあげたい気持ちで一杯になったのであった。
「これは間違いなく私が俊輔の為にプレゼントしたボールペンです。俊輔、ずっと大切に持っていてくれてありがとう。」
友美は20年前よりもずっとずっと素敵な笑顔で俊輔に微笑みかけた。
「友美…」
全てを知った今、あの頃以上に自分の中で湧き上がるある感情に気付き、友美はそれを抑えつけるかのように戯けて言った。
「ったくもー!普通プレゼントされたら長く大事に使うのが普通でしょ〜!?まさか使わずずっとしまっておくとは思わなかったわよ!俊輔、大切の仕方が間違ってるよっ。」
昔、良くこんな風に叱られたものだ。腰に手を当てて頬を膨らます友美を見てふと笑顔を見せた俊輔であった。