別荘での戦い-1
巴への念願の告白…、それが無事に成功を収め、今や交際から早一か月を過ぎようとしていた。
「うーん♪ポークがまたいい香りがするー、ねっ!?隼人っ!」
俺と巴は今とある別荘へ居る。と言うのも母の知人がどうやらそこそこの年収のあるレストラン経営者らしく、母はその同級生でひょんな事からこの別荘を貸してくれる話となり俺が恋人である巴の事を話すと随分と上機嫌にここを紹介してくれて。今頃俺と巴と恋人同士イチャイチャしてる姿でも思い浮かべているのだろうか…。
「あぁ!野菜との相性も抜群だな。」
人込みで溢れる街を離れ、緑と自然に囲まれたのどかな別荘。
「近くに山…あったよね?きっとああいう所には色んな普段テレビや写真でしか目に出来ない野生動物が居るんだろうなぁー。」
「居るかも知れない…、そう考えるのが一番のだいご味とも言える。」
「…ふふそうだね、いやー会ってみたいなぁー熊とかオコジョとか。」
「オコジョって冬でなかったか?それに熊って、死ぬぞ?」
「そうだけどー、責めてリスとかには会いたいな、あの愛くるしい瞳、どんぐりなんかもってさぁー♪」
別荘の近くでバーベキューを愉しみ、その後の事を子供のように無邪気に考えはしゃぐ彼女。
愛しい人との幸せなひと時、誰にも邪魔されず二人きりで過ごす、この日が来ると決定した夜、俺がどれだけ心躍ったか。
天気は良好、風も気持ちよい…。
俺の目の前では愛おしい彼女がせっせことウィンナーや玉ねぎを焼いている。
「…ん?隼人、どうしたの、肉も焼かんと…。」
「……あーしっけい、いや何一生懸命肉を焼くのに必死なお前があまりにも可笑しくてつい見とれてしまってだな。」
「何を言うてまんがな。」
「いや違うか。」
「?」
「こういう経験がほとんどなくそれでも俺の為に必死になって不器用ながらも頑張るお前の横顔が、可愛いんだな。」
「っ!」
駄目だ、ニヤニヤが止まらない。
「ばっばっ、バカこくでねぇー!……んもぅいいから見てないでアンタも焼きな!」
「だなっ!」
とても、とても幸せなひと時、まるでのどかな蝶々でも優雅に羽ばたいてそうなお花畑にでもいるような気分だ。
…けど、実際にはそうじゃなかった。
「おっ、コーンが良い焼け具合になってきた。」
俺がそれを巴に渡そうと腕を伸ばしたその時。
「はい!巴。」
「ん?あぁありがとう……蓮。」
「……。」
お花畑に土足で侵入してきた薄汚いゴキブリ。
巴の元カレ、一条蓮が俺と巴の愛の巣に紛れ込んできたのだ。