第3章 大人になって-6
何も昔の事を掘り返さずに、今のままでもいいのかな…、そう思ったりもした。どちらにせよもうお互い結婚している訳だし和解してどうなると言う訳でもない。下手に刺激を与えるような真似はしない方がいいのかなとも思った。
しかし友美にとって自分を無視した事は恐らく強く胸の中に残っている事であろう。もしそれが友美の中でどうでもいい事になっていたならば口からその話しが出てもいいものだ。しかし心の中に強く残りながら話題に出さないと言う事はやはり忘れきれない問題である事は間違いない。お互いその事についてちゃんと話したい気持ちは持っている筈である。友美は自分の口からその事について話すのをきっと待っているんだと思うと、やはりこのまま知らんぷりは出来ないな、そう思った。
「友美、今度卓球やらない?久し振りに。」
「えっ?」
意外な言葉に友美は驚いた。友美は中学時代は卓球部であった。部活中、たまに俊輔が卓球に来て打ち合っていた。俊輔は意外と卓球が上手く、友美は俊輔と卓球するのが楽しかった。その思い出が蘇る。友美はゆっくりと表情を和ませながら答えた。
「いいよ♪またコテンパにしてあげるよ。」
「俺、コテンパにされた事ないじゃん。」
「いつもコテンパだったよ♪」
「そんな事なかったよ。」
俊輔はついついムキになった。しかし何となくこの懐かしい感覚が心地よく感じた。いつも友美にからかわれムキになる…、それが2人のスタンスだった。俊輔は可笑しくなってしまった。
「やっぱ変わらないなー、俺たち。」
そう言った俊輔だったが、友美は少し違うようだ。
「ううん?変わったよ、やっぱ。2人ともあの時のままじゃない。」
「え?どう言う事?」
不思議そうな顔を浮かべる俊輔をはぐらかす。
「さぁね♪ンフッ」
「何だよ??」
「別に??じゃあいつやる??明日は?」
「あ、明日??急じゃね??」
「だって俊輔が思い出させるから急にしたくなっちゃったんだもん、卓球。バレンタインは次の日だし、別に用事ないでしょ?」
明日は2月13日。バレンタイン前日の平日だ。
「仕事終わってから??大丈夫なの?」
「啓介??平気平気。べつにやましい事する訳じゃないし。俊輔は?」
「19時になら大丈夫だと思うけど。」
「じゃあ19時にそこのセブンでいーい?」
「あ、ああ、分かったよ。」
「じゃあ約束ね?遅れたり来れなくなったらLINEして?スマホ貸して?」
「あ、ああ。」
友美にスマホを手渡すと、慣れた手つきでLINE登録をしたのであった。登録を終えると若干恥ずかしそうな仕草を見せた友美。
「あ、ありがとう…」
「ううん?」
LINE登録してもらいソワソワしてしまった俊輔は、
「じ、じゃあ帰るよ…」
そう言って彩音を抱きかかえて玄関に向かう。靴を履き終えるとバイバイと手を振る友美に思わずお辞儀をして保育園を出て行った俊輔。
「もしかして…誘ってる…?」
久々の再会に大人になっての喜びを確かめ合えてしまうのではないかとドキドキしてしまった俊輔。
「ブー!!」
そんな俊輔の顔を偶然彩音が手でギュッと掴んだ。
「痛てて…!ご、ごめんよ彩音…。んな訳ないよな。パパは彩音と亜里沙だけ愛してるからね〜♪」
そう言った俊輔に偶然かどうか分からないが、彩音がニコ〜っと笑ったのであった。