第1章 あの日の後悔-1
「俊輔…だよね?」
俊輔の子供は1歳になる。妻の亜里沙が産休を終え復職した為、1歳になる娘の彩音を保育園に預ける事になった。保育園を探したり事務的な事は全部妻に任せてあった。男はそういった事は良く分からないし面倒くさくてダメだ。色々相談もされたが聞いている振りをしていたが別にどこの保育園でも良かったし上の空で聞いていた為、入園金や費用など未だに良く分からない。ただ初めての子供で当然保育園に子供を送って行くのも始めて。保母さんと接する機会など今までなかったし可愛い保母さんいるかなと、そんな期待と初めての経験に若干のワクワク感を抱きながら子供を抱え玄関を出る。
「気をつけてね〜!」
玄関の中から笑顔で手を振る亜里沙。自分の妻ながらいい女だといつも思っている。5歳下の亜里沙とは3年の社内恋愛を得て一昨年に結婚した。亜里沙は事務員の中でも抜群に可愛かった。会社の飲み会で音楽の趣味が同じで盛り上がった事をきっかけに急接近し、その日の内に大人の関係になった。俊輔は俊輔で前から可愛いと思っていたし、亜里沙は亜里沙で密かに俊輔に好意を抱いていたのだが、抱き終わった後に、そうゆう訳だから割と簡単に俊輔の誘いに乗ったんだからね?と言われた。決して尻軽女ではないのだと言いたかったのだろう。実際亜里沙は尻軽女ではなかったし俊輔も亜里沙と付き合い始めてから一切他の女と関係を持った事はない。ママになっても亜里沙への愛情は変わる事はなかった。結婚を機に会社を辞めた亜里沙は違う会社の事務をしている。子供も生まれ、まさに今は幸せ一杯であった。
俊輔は別に保母さんと浮気したいからウキウキした訳ではない。男なんてそんなもんだ、みんな。可愛い子がいれば仲良くなりたいし話をしたい。そんなもん。単純な生き物だから、男っていうのは。
俊輔は子供を後部座席のチャイルドシートに乗せ車を走らせようとした瞬間、ちょっと緊張が走る。俊輔は人の命を預かってハンドルを握ると言う責任感を覚えた。人生を始めたばかりのこの子の命を何が何でも守らなくてはならないと言う、そんなプレッシャーを感じた。俊輔ははどちらかと言うとスピード狂だ。今までに何回もスピード違反で捕まった事がある。そんな俊輔が法定速度を守り、標識をしっかり確認しながら保育園までの15分の距離をまさに模範的な運転をして愛娘を送り届けた。保育園に着いた時の安堵感と言ったら…。もう一日仕事をこなしたかのようにどっと疲れが出た。安堵の溜息を吐いてから車を降り後部座席の彩音を大事に大事にチャイルドシートから外し抱きかかえる。
保育園…、外から見ても何かホッとするような優しい雰囲気だ。それまでどんな可愛い保母さんがいるのかの期待の方が大きかったが、いざ着いてみると僅か1歳の子が一日保育園でやっていけるのかの心配の方が大きくなっていた。他の子とうまくやっていけるのだろうか、イジメられないだろうか、思いもよらぬ事故で死んだりしないだろうか…、急に心配になって来た。すっかり複雑な気持ちになってしまった状態でいよいよ初めての保育園の中へと足を踏み入れたのであった。