男子会-1
「茜ちゃん!…紹介するね。」
人々が賑わう昼休み、私は風馬君を連れ既に踊り場に待たせた茜ちゃんの元へ向かった。
「……そう、なんだ、あの時親切にした人が、君の言ってた。」
「うん、私の後輩の。」
数時間前、私は私と彼女の間で起きたトラブルについて打ち明けた。
「僕が軽率な行動をしたせいで。」
「そんな事ないよー、君は知らなかったんだし、普通に親切をしただけだよ。」
「若葉ちゃん…。」
そう、彼は何も悪くない私がこの話をしてからこうやって自分を責めたりしているけどそんなものは仕方がない。
「……。」
可愛い後輩に自分の愛おしい彼氏を紹介する、本来ならそれでどうもしなく楽しいひと時でも過ごすのだがこれはそうはいかない。
不運にも彼女は人の彼氏を好きになってしまったのだから。
「改めまして小鳥遊風馬です、……君の先輩柊若葉の恋人です。」
面と向き合って胸を張りこの前会った彼女に自己紹介をする。その言い方口調は「自分には恋人がいる、だから君とは絶対付き合えない」そう主張している。
彼は最初までは少しウジウジしていたものの決意をし、きっぱりと事実を告げる事にした
ここで変に嘘や隠し事をすると後々面倒なトラブルになりかねないと悟り。
「………。」
何を言うでもなく口を開け彼を見つめる彼女。
「もう一度会ってお礼が言いたいだけ。」
お店で茜ちゃんはそう断言してくれた。
これならば後々彼を好きになって断ったら怒りだしてそして復習…。
一瞬背筋が凍った。
まただ、また目の前にいる彼女をあの子と比べてしまった。
「若葉ちゃん?」
「っ!!」
顔が青ざめた私に気づき声を掛ける。
「大丈夫?」
「…う、うん!ごめん。」
駄目ね、どうしてもこの状況だとデジャブーが。
「先輩。」
「っ!」
「…大丈夫ですよ。」
「茜ちゃん。」
「人の彼氏に手を付ける、何てどこかのドロドロ劇じゃありませんしそんな事しませんよ…。」
「……。」
「確かに彼はとても良いひと、こんな私にあそこまでしてくれて…だから私はあの時貴方に惚れた、そして恋人がいると聞いて悲しかった、更にその相手が私の尊敬する先輩だと知ってとても驚いた。」
そりゃそうだ、私だって。
「もしも彼の恋人が先輩ではなく名も知らない縁もゆかりもない人だったら、きっと…ううん!必ず奪ってた。けどそれをしなかった…だってその恋人は私にとっても大好きな人惚れた相手を恋人にする為に先輩を深く傷つけるくらいなら、って。」
何だか恐怖心が拭き取れない、けど目の前の茜ちゃんの話には悪意も嫉妬も微塵にも感じられない。
彼女は本当に…。
「小鳥遊…さん。」
「っ。」
距離を置くような呼び方。一呼吸して姿勢を改め彼に向き合う。
「この前は私の事救ってくれて有難う御座いました。」
「……。」
「彼女は私にとっても大事な人、きっと私が言わなくても大事にしてるのでしょう。」
二つ学年が下なのにとても大人びて見える。
「うん、どんな時だって彼女の事一番に考えているつもり。」
風馬、君…。
「それを聞いて安心しました、どうか彼女の事宜しくお願いしますね。」
「こちらこそ、彼女と仲良くしてくれてありがとうね。」
……こうして愛しい恋人と、可愛い後輩からそんな風に言われる私って。
とっても幸せかな。