腕の中で-1
「わあっ！」
テーブルいっぱいに宅配のピザが並んでいた。だいぶ遅めの夕食だ。
「いただきまーす！」
ウチに来た時の何倍も元気な優里菜ちゃんを見て、姉さんがちょっと不思議そうな顔をした。
「鷹志、優里菜ちゃんになんかした？」
「さあ。風呂上りって、元気になるだろ？体が温まって。」
「そう？まあ、風呂上り元気なのは、私もだけどさ。」
車椅子から身を乗り出してピザを掴み、パクついている優里菜ちゃんを見つめている姉さんに、聞こえないぐらいの声で囁いた。
「…綺麗にしてあげただけだよ。」
カリーンコローン。
ドアベルが鳴った。来たか。
「お父さん…。」
優里菜ちゃんの顔が少し曇った。
「すみません、またこんなことになってしまって。」
「いえいえ、よくいらっしゃいました。さ、ご一緒に。」
姉さんのダンナさん、つまり優里菜ちゃんのお父さんは気まずそうにリビングに上がった。
「優里菜…。」
ピザを食べる手が止まっている。
「ちょっとぉ、優里菜ちゃんの前に私でしょうが！何か言う事、忘れてない？」
「あ、一美。ごめん。」
「何がごめんなの？」
「え…。」
姉さん、言えるわけないだろ、みんなの前で。児童ポルノ見てるのを見つかって怒られたことなんか。実は僕がカメラと編集を担当してるやつなんだけど…。
「優里菜、お父さんはお前が大好きだ。」
…ダンナさん、今の文脈でそれは誤解を生みますよ。
「お父さん…。」
優里菜ちゃんが顔を上げた。
「だから…。ごはん頂いて帰ったら、一緒にお風呂はいらないか？」
「お父さん！」
優里菜ちゃんの顔に花のような笑顔が広がった。お父さんは、車椅子に座っている彼女の頭を、自分の胸にギュっと抱きしめた。
その腕の隙間から僕に投げてきた少女の視線は、ちょっとイタズラっぽかった。