少女の見たカケラ-2
脛からふくらはぎ、そして膝の表と裏を洗い、太腿の上をスーっと撫で上げた。いったん手を手前に戻し、今度は太腿の外側を。もう一度手を戻し、足の付け根へと向かって太腿の内側に掌を滑らせた。
しっとり滑らかな白い肌にソープを塗り付けていくと、目の前に優里菜ちゃんの恥部が迫ってきた。僕の手がそこに近づくにつれ、彼女の体に緊張が走るのが分かった。
「洗うよ?」
一瞬の沈黙ののち、優里菜ちゃんは俯き加減に小さく頷いた。
僕は彼女の左太腿の内側に自分の左手を這わせ、足の付け根の所で掌を上に向けながら股間に潜り込ませた。
優里菜ちゃんはきつく目を閉じ、眉根を寄せた。
左手をゆっくりと前後に往復させた。中指に軽く力を入れて。
少女の唇が、何か言いかけた様に少しだけ開いた。
僕は位置や強さを微妙に変えながら洗い続けた。もちろん、ゴシゴシと乱暴に擦ったりなんかしない。優里菜ちゃんの敏感な肌と僕の指の間にソープの膜を広げるようなイメージで慎重に指を滑らせた。
徐々に、徐々に、優里菜ちゃんに変化が現れ始めた。
ガチガチに固くなっていた体から力が抜けていき、顔の緊張が緩んでいった。いつの間にか肩が大きく上下し始め、鼻から吐き出される息が、ふん、ふん、と音をたて、それは浴室内に小さく響いた。
「大丈夫?優里菜ちゃん。」
緩やかな胸の脹らみに右手を当ててさすりながら訊いた。掌に小さな突起が転がる感触が伝わってくる。
「え…?」
彼女は気怠い表情を浮かべて重い瞼を少しだけ持ち上げた。
「このまま続けてもいいの?」
「うん、いいの…。続けて、鷹志さん。」
僕は手の動きを少しだけ大きく早くした。それに呼応するように彼女の息が荒くなり、何かを訴えるような瞳を投げかけてきた。それは、戸惑いと不安と、そして…。
やがて優里菜ちゃんの上半身がピクリ、ピクリと動きだし、僕の左手の指先にソープ以外のヌメリが混ざり始めた。
鼻だけでは呼吸が追いつかなくなったのか、口が半開きになり、唇の端から涎のようなものが糸を垂らしている。
僕は、生暖かい谷間を往復させていた中指の動きを、小さく円を描く動きに変えた。それにより、谷の内側の壁を左右交互に押し広げる形となり、同時に、浅い谷間に挟まれてポツリと顔を出している蕾の存在を、中指の第二関節あたりに感じる結果となった。
「ぐ…」
優里菜ちゃんの喉が鳴った。上半身はすっかり脱力し、両腕はだらりと垂れ下がって、頭も背もたれに預けている。はあ…、はあ…、という優里菜ちゃんの乱れた呼吸と、グジュ、グジュ…、という僕の指先から発せられる粘り付くような湿った音だけが、浴室の壁に反射して短い残響を聞かせている。
「…鷹志さん、これって…」
少女は、絶えだえの息で自分の身に起こっている事への疑問を口にした。
「理解しなくていい。優里菜ちゃん、僕が君を綺麗にしてあげるから。」
彼女の口元が、微笑みの形に緩んだ。
そんな彼女の表情に、僕の指先はさらなる疼きを掻き立てられ、より大きく早く強く、そして深く…。少女の内側を求めた。
「…っ、…っ」
声にならない息を漏らし、眉根をよせて唇の端を震わせながら、少女は閉じそうになる瞼を必死に支えて僕を見つめた。僕は、真っ直ぐに見つめ返した。
「…っ、…っ!」
少女は、一段と大きく息を吸い込み、
「ぁっ…」
歯を食いしばって上半身をグイィーっと大きくのけ反らせ、両手を宙に泳がせた。僕はその手をしっかりと握った。彼女は、信じられないほどの力で握り返してきた。
僕は、少女の体から女の余韻が抜けていくのをじっと待った。
ガク、ガクガク、ガク…、ガクリ。
やがて小刻みな体の震えは収束の時を迎え、ガチガチになっていた手の力が抜けてダラリと垂れ下がり、後悔とも満足ともつかない表情を浮かべた少女の唇が開いた。
「なぜ泣いているの?」
「え…?」
僕は慌てて自分の頬を両手で触った。その指が震えている。
「私、鷹志さんの大切なものを奪ってしまったの?」
「何を…、何を言って…」
「遠くを見てるよ、寂しそうな目で。」
僕は、戻れない少年の日の慟哭の残滓を、少女の向こう側に見た。少女は、大人への憧憬のカケラを、僕の瞳の奥に見つけた。
「…君が奪ったんじゃない。僕自身が失くしたんだ。そして、僕が与えたんじゃない。君自身が見つけたんだ。」
優里菜ちゃんは困ったような笑顔を浮かべた。
「よくわかんない。」
僕は微笑み返した。
「それでいいんだよ。それが君の、今の君の…」
僕は口を閉じて立ち上がり、シャワーのレバーを回した。
「流すよ、君を覆っている泡を。全部。」
「うん。」
霧の様に細かく温かいお湯の粒子が、少女を包む泡を洗い流していく。若々しい肌が、その姿を再び僕の前に現していった。