車輪-1
「鷹志!何やってるのよ!」
脱衣所に姉さんの声が響いた。それは大きすぎて、浴室のドアをビリビリと震わせた。
「ごめん。」
「ごめん、じゃないでしょ!こんなこと…。」
「違うの、お母さん!私が調子に乗って走り回ったから…」
「鷹志。この子は普通の子じゃ…」
左頬をピクっとさせ、姉さんは言い淀んだ。
「…なんで手を離したのよ。」
そこに広い空間があったから。他に理由なんてないけれど、それが多くのリスクをはらんでいることを、僕は知っていたはずなのに。
「お母さん、私が…」
「こんなに土まみれにさせて。…大きなケガはなさそうだけど。」
姉さんは公園で転んだ優里菜ちゃんの体を確かめている。
「さ、あんたはもう向こうに行って。綺麗に洗ってあげなきゃ。その上でもう一度ケガの具合を確認よ。」
「うん…。ごめんね、優里菜ちゃん。」
「どうして?どうして鷹志さんが謝るの?転んだの、私だよ?」
「優里菜、あなたはね、あなたは…」
また言い淀んだ。
「…あなたはまだ子供なんだから。あなたがケガをしたら、一緒に居た大人の責任なの。」
優里菜ちゃんは首を振っている。
「分からない。どうしてそうなるの?」
「どうして、って…」
「優里菜ちゃん、まずは体を綺麗にしてもらおうよ。ケガの所も洗っておかないと黴菌が入っちゃたいへんだからね。」
彼女は口をすぼめ、視線を落とした。そして小さく頷いた。