訪問者-2
バタン。
扉を開くと、全裸の優里菜ちゃんが横向きに車椅子に座っていた。
車いすの横の小さな棚に乗せられたカゴには、たったいま優里菜ちゃんが脱いだばかりの衣服が無造作に入れてある。脱いだ順に置いていったのだろう、一番上には白い小さなパンティが見えている。
僕は入浴介助椅子を優里菜ちゃんの斜め前に向け、彼女の正面に立った。
腰まで届きそうなぐらい長い黒髪の下のあどけない瞳には少し恥ずかしそうな色が浮かんでいる。介助されることに慣れているとはいえ、そろそろ異性を強く意識し始める年頃だ。無理はない。
白く細い首から華奢な肩へと繋がる鎖骨は頼りなく、その下の胸にはまだわずかな膨らみしかない。先端も小さくて硬そうだ。
ウェストの括れはあまり感じられない。太くは無いのだが、腰骨が発達する前だから相対的な差が小さいせいだろう。
陰毛はもちろん生えていない。足の付け根へと向かって縦に続く浅い谷が、遮るものなく見えている。
滑らかな白い肌の足は細長い。歩くための筋肉を使っていないからだ。
足の指の爪は綺麗に切り揃えてある。ボランティアで行ったデイケアでは、家族に放置されて巻き爪になってしまっている人を多く見かけたが、姉さんはちゃんと切ってあげているようだ。
「さ、乗り換えるよー。」
車椅子の足置台から優里菜ちゃんの素足を片方ずつソフトフローリングの床に下ろした。
僕の首に両手を巻き付けるような形に抱き着かせ、自分の腕は彼女の腰に回して後ろでしっかりと組んだ。半袖Tシャツの僕の腕に艶やかな髪がファサリと掛かった。
その状態で体を支えながら、全身の動きで彼女を手前に引いて浅く座りなおさせた。
浪人中にボランティアでデイケアに行って以来だが、意外なほどに体がしっかりと手順を覚えていた。
優里菜ちゃんの両足の間に自分の左足を入れて右足を後ろに引き、膝を曲げてしっかりと重心を落として、後ろへ倒れていくようなイメージで彼女を抱き寄せた。
優里菜ちゃんの裸の胸がTシャツ越しに密着した。そのときの胸への圧力で彼女が漏らした、んふぅっ、という息の音が右の耳たぶをくすぐった。
体の傾きを少し前に戻すと、僕の左太腿に、そこをまたいで座っている優里菜ちゃんの全体重が掛かった。ジャージ越しに感じる彼女のお尻は、やや硬いけれどもハリがある。寒いのだろうか、少し冷たい。
息を整え、全身を柔らかく使って彼女の腰から上を持ち上げ、右にひねって入浴介助椅子に座らせた。ちょっと相撲の投げ技っぽい動作だ。
「ふう…。」
思わずため息が漏れた。10歳の少女だとはいっても、自力で立たない子を移動させるのには、かなりの力が必要だ。
入浴介助椅子に背中をもたれさせた優里菜ちゃんが穏やかな表情で見上げるように見つめてきた。
「鷹志さん、うまいですね。ぜんぜん怖くなかったよ。」
「そう?二十年ぶりぐらいだったんだけどね。うまくいってよかったよ。」
介助椅子の車輪ロックを外し、浴室の三段式スライドドアを開いて中に入った。
血は繋がっていないとはいえ初めての孫に浮かれたオヤジは、風呂のリフォームついでに家中をバリアフリーに改装した。脱衣所から浴室への移動も例外ではなく、段差がないので介助椅子の車輪で簡単に越えられる。ちなみに、この入浴介助椅子もオヤジが福祉介護用品店で買ってきたものだ。そのとき店に置いてあった一番高いやつらしい。
車輪にロックを掛け直し、スライドドアを閉めた。
「じゃ、シャワーからしていくね、優里菜ちゃん。」
「うん!」