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大晦日の夜に
【青春 恋愛小説】

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大晦日の夜に-3

「あ、ここにいたんだね。さすがに大晦日の夜はどこも混んでるなあ」
 葵の後ろから、聡がスタバの紙袋を片手に駆け寄ってきた。
 優しそうな笑顔。
 背の高いイケメン。
 葵と並ぶと美男美女でいかにもお似合いのカップルっぽくて、美咲はまたイライラしてしまう。
「べつに、聡くんまで来ることなかったのに」
「そういうわけにはいかないよ。まだ亮太と喧嘩中なんだって? クリスマスイブの夜から毎晩泣いてるって聞いたけど……はい、これが美咲ちゃんの分」
 聡が差し出してくれた飲み物をひったくるようにして受け取りながら、美咲はフンと顔を背けた。
「泣いたりしてないよ! そんなの、全部おねえちゃんの作り話なんだから」
「こら、その態度、甘えるのもいい加減にしなさい。もう23歳でしょ? 人から物をもらったら、ちゃんとお礼を言いなさい」
「知らない! おねえちゃんなんか……」
 続きが言えなくなる。
 おねえちゃんなんか、わたしのことどうでもいいくせに。
 わたしをおいて、聡くんと結婚しちゃうくせに。
 ふいに涙がこみあげてきて、美咲はふたりに背中を向けたままうつむいた。
 
 聡と葵は、来年結婚することになっている。
 今日はこれから車で旅行に出かけ、景色の良い旅館で新年を迎えようと計画しているらしい。
 ふたりは中学生の頃から付き合い始め、高校でも大学でも社会に出てもずっと恋人同士のままで、むしろお互いの家族の間には「早く結婚すればいいのに」という空気が流れていた。
 美咲はまだ小学生の頃から葵にくっついてよく聡の家に遊びに行ったものだったが、聡は美咲を邪魔者扱いすることもなく、本当の妹のように可愛がってくれた。
 それは今も同じで、なにかと葵に甘えっぱなしの美咲を、聡も一緒になって相手になろうとしてくれる。
 誕生日プレゼントも欠かさず、クリスマスにも毎年美咲の好きなものを贈ってくれる。
 だけど、美咲は聡がどうにも気に入らない。
 大好きな姉を盗られたようで悔しくなってしまうから。
 来年からは、もうおねえちゃんとは暮らせない。
 おねえちゃんは聡くんのものになっちゃう。
 もう髪を綺麗に巻いてもらうこともできないし、洋服や化粧品を貸し借りしたり、メイクを手伝ってもらうこともできなくなる。
 夜遅くまでおしゃべりしたり、彼氏の愚痴を一番に聞いてもらうことも……。
 寂しい。
 寂しくて悲しくてたまらない。
 自分でもあまりにも子供っぽいと思うから絶対に口には出さないが、本音では『結婚なんかやめて、わたしとずっと一緒にいて』と叫びだしたいような気持ちでいっぱいだった。


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