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大晦日の夜に
【青春 恋愛小説】

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大晦日の夜に-2

「ねえ、聡(さとる)が飲み物でも買ってこようかって。何がいい?」
 振り向くと、姉の葵がスマホの画面に目を向けたまま、美咲の髪をくいくいと引っ張っていた。
 足元には旅行用の大きなトランク、薬指には大きなダイヤのついた婚約指輪。
 余裕のある表情と、葵の周囲に漂う幸せそうな空気に腹が立つ。
 美咲は苛立ちをぶつけるように、大げさなしぐさで葵の手を振り払った。
「やめてよ、せっかく綺麗に巻いたのに崩れちゃうじゃない! 飲み物なんていらない、いまはそれどころじゃないんだから」
「はいはい、亮太(りょうた)くんのことで頭がいっぱいだもんね。とりあえず、あんたは期間限定のナントカフラペチーノとかがいいんでしょ? 聡、スタバに寄ってきてくれるらしいよ」
「え……うん」
 できたらストロベリーのがいい、と言い添えながら、美咲はポチポチと聡に返信を打つ姉の横顔をちらりと盗み見た。
 いいなあ、おねえちゃんは美人で。
 葵の隣にいると、美咲は自慢に思うのと同時に、いつもコンプレックスを刺激される。
 葵と美咲は五つ違いの姉妹だが、美咲の目から見るとまったく似ているところがない。
 葵はすらっとした背の高い美人で何でも器用にこなすタイプなのに対し、美咲はどちらかといえば小柄で、出来そこないのタヌキみたいな顔をしていると自分では思っている。
 おまけに不器用で、大人になった今でも自分が抑えられず、何かあるとすぐに怒ったり泣いたりしてしまう。
 子供の頃には本気で別々の親から生まれたのではないかと疑惑を抱いたことがあり、思いつめて号泣しながら母親に「本当のことを教えて」と訴えたが、わけのわからないことを言うなと頭を叩かれて終わった。
 たしかに、目だとか鼻だとか、ひとつひとつのパーツを見れば似ていないこともない。
 だけどほんの1ミリか2ミリ配置が違っただけで、片方は芸能人並みの美人になり、もう片方は間の抜けたタヌキ顔になるのだから、神様って本当に意地悪だと美咲は思う。


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