フォトフレーム-1
「次の方、どうぞ。」
菅野さんが診察室に入ってきた。
「ねえ、諒子さん。」
私は冷たく返した。
「何ですか、菅野清志さん。なれなれしいですね。」
彼はハア、っと一つため息をついた。
「あれからずっとそんな調子だよね。事務的に診察してお大事に、って。」
「それが仕事ですから。」
「話ぐらい聞いてよ。今日はいいだろ?他に誰もいないんだから。」
今は通常なら診療時間外。でもどうしても予約が入れられなくて、こんな遅い時間になってしまった。祖父も看護師さんたちももう居ない。
「いくらでも聞きますよ、主治医ですから。おかげんいかがですか?」
清志くんの左頬がピクっとひきつった。
「いいかげんにしろ!」
私は唇が震えた。
「何よ!勃たせればいいんでしょ!」
診察台を指さした。
「…。」
彼は無言でカーテンの向こうへと消えた。
しばらくの間、衣擦れの音が聞こえてきた。
「先生、準備出来ました。」
カーテンを捲り、彼のその部分を確認した。いつもの通りだ。
私は可動アーム式テレビモニタを彼の顔の前にセットし、医療用途でしか使用を認められていない写真を映し出した。女性のその部分にモザイクはかかっていない。
清志くんはそれを無表情に見つめている。
「どうですか。」
「性欲を感じます。」
彼の体に変化はない。
今度は動画を流した。医療用でもマズくない?ぐらいのやつ。もちろん音声付。
「これはどうですか?」
「とてもムラムラします。」
体に変化なし。
「何回もやったじゃないですか、そういうのは。」
「そうでしたね。では。」
私は白衣を脱ぎ、ブラウスの裾を掴んで一気に左右に引いた。
「な…。」
ブチブチブチンッ、と全てのボタンが弾け飛んだ。
「これは初めてですよね。」
そのままブラウスを脱ぎ捨てた。
「…何やってるんだ、諒子さん。」
私は、上半身がブラだけになった姿で冷たく質問した。
「どうですか。何か感じますか。」
彼は明らかに動揺している。
「何か、って…。」
「ダメですか。じゃ。」
ブラのホックを外した。
「ちょ…。」
肩ひもを下ろし、ブラを床に落とした。胸が上下に少し弾んだ。
「ヤケになるのはやめてくれ。」
私は唇の左端を歪ませた。
「勃ちませんねぇ。こんなもんじゃ無理ですか。」
スラックスのホックに手を掛けた。
「やめろ!」
清志くんが立ち上がろうとした。
ダン、カシー、カチャ。
「え?何?」
「緊急拘束です。エマージェンシーペダルを踏んで両手両足とウェストを固定しました。」
「どうしてこんな…」
「患者さんの安全の為ですよ。転落しかかったでしょ?」
「転落じゃない!自分の意志で」
「同じことです。」
ホックを外し、ファスナーを下げて手を放すと、支えを失ったスラックスは重力に従って落下した。
「やめろ、ってば…。」
そう言いながら、清志くんの視線は私の胸とパンティを往復している。
ふん、体には興味あるってか。だったら。
パンティのゴムに両手の親指を引っ掛け、ゆっくりと下げていった。茂みが徐々に現れていく。
「やめてくれ…。諒子さんのそんな姿、見たくないよ。」
「そのようですね。体は正直。全く変化なし。」
「そういう意味じゃ…。」
バサッ。
清志くんが息を飲んだ。私が自分のパンティを膝まで引きずり下したのを見て。
「勃ちませんねえ。」
足首からパンティを抜き取ってポイっと投げ捨てた。完全全裸。
「あ、あ…。」
清志くんは私の体を上から下まで何往復も視線を這わせ、何か言いたげに口をワナワナさせている。
「そこからじゃよく見えない?じゃ。」
私は診察台に這い上がり、四つん這いで清志くんに覆いかぶさった。
「何を…んぐ。」
右の胸で口を塞いでやった。
「勃ちませんねぇ。」
「むぐ…。」
左胸。
「勃ちませんねぇ。」
前後クルリと半回転し、お尻を彼の顔めがけて下ろしていった。清志くんの瞳孔が開ききっている。
「諒子さん…どうしてそんなことを…。」
私はお尻の降下を止めて言った。
「義務です。医師として。患者への。治療すると約束しましたから。」
清志くんは私の剥き出しのお尻の下で潤んだ瞳をしている。
「義務って…。だから濡れてないんだね、そんなことをしているのに。」
「…。」
「義務感でしようとするから濡れないんだ!そんなの…そんな諒子さん、見たく…ない…よ。」
彼は横を向き、目を閉じた。
「…濡れなくて悪かったわね。」
私は診察台から降りた。
プシュー、カシャン。
拘束を解除し、清志くんに背を向けて診察台とは反対側の壁際に歩いて行った。そこには小さな本棚があり、若いころの祖父が二人の友人と一緒に写っている写真がフレームに入れて飾ってある。私はそれを手に取り、見つめた。