フォトフレーム-2
「あなたにとって私はいつまでたっても主治医の美野村諒子。治療の為にウソの恋人同士をやっても、せいぜい諒子さんとしか呼ばれない。」
背後で清志くんの立ち上がる気配がした。
「私はいつまで諒子”さん”なの?いつまで呼び捨てにされないの?」
ペタン、ペタン。
近づいてくる裸足の足音が聞こえた。
「こんなふうに思ってるの、私だけなのね。バカみたいじゃない。」
ジワっと両目の奥が熱くなった。
「だったら…医者の義務をはたす以外に私に出来る事なんて何も無い…。」
ツー。
一筋の涙が頬を流れ、
ピチャン。
手に持った写真の上に落ちた。
「それなら…僕にも言いたいことがある。」
私の背中に清志くんの声が静かに響いた。
「いつまで僕を年下の男の子扱いをするんだ?僕じゃ頼りないのか?僕はそういう対象には見れないのか?」
ギュ、っとフォトフレームを持つ手に力が入った。
「なによ!私のこんな姿を見ても勃たないくせに。あの子なら勃つんでしょ!」
私は振り返り、フォトフレームを清志くんに投げつけた。
バシ。カシャーーン。
「あ!」
それは清志くんのその部分に直撃し、跳ね返って床に落ちた。
「ご、ごめ…今のはいくらなんでも…」
「もう一回!」
彼が大声で叫んだ。
「はぁ?」
私はマンガのようにのけ反った。
「もう一回だ、早く!」
ヘンタイ?ヘンタイだったの?この人。
「いいから!」
清志くんはフォトフレームを拾い、私に握らせた。
「さあ!」
「あ、うん…。」
ポイ。ペシ、カシャン。
「もっと強く!さっきみたいに!」
「は、はい。」
知らないよー。勃たないどころか使い物にならなくなっても知らないよー。
「エイッ!」
ビシィッ。ガッシャアァアァアァーーーーン。
床に落ちたフォトフレームはガラスが割れていた。
「だ、大丈夫?」
彼は俯いてじっとしている。
「痛かった…よね?」
まだじっとしている。
「診せて。私、そこの専門医だよ。」
「…これ。」
「え?」
清志くんが顔を上げた。
「僕らはこの診察室で出会う前に、既に会ったことがあるかもしれない。」