医学部実習 医師役-1
「それじゃあ実習はじめようか。」
准教授の声を合図に私たちは準備を始めた。
診察台、各種用具類、ファイバーカメラとその操作盤およびモニタ、などなど。
「今日はED治療の手技を実際にやってもらいます。さて、患者役の立候補、誰かいるか?」
准教授が男子学生たちを見回したが、みんな顔を伏せて目を逸らした。
「おまえら…そんなんで一人前の医者になれると思ってるのか?しかも他人のその部分を診療する泌尿器科医を目指してるんだろ?それとも、若い女のアソコが見たいだけかあ?」
誰も笑わない。図星?なさけないなあ。
「先生、立候補なんかするわけないじゃないですか。患者役になったら自分が何をされるかなんて、医学部の彼らはよーく知ってるんですから。女子を含めてこんなに大勢いる状況で自分から手を上げろなんて、ハードル高すぎますよ。」
「だよなあ。はは、分かってるさ。でも、もしかして気合入ってるヤツいないかなあ、って思っただけだよ。」
「気合って…。」
「うーん、もうちょっと真面目な言い方をしようか。」
准教授は少し引き締まった表情になった。
「今、君はハードル高いって言ったけど、実際の患者さんの事を考えてみろ。勉強で患者役をやってるんじゃなく、本当に体の不調を感じて医者に掛かろうとしている男性の事を。」
「あ…。」
「恥ずかしいなんてもんじゃないぞ。全くの他人に見られ、弄られるんだぞ?そんな患者のリアルな気持ちも知らずに医者になる気か?」
「それは…そうですね。患者の気持ちを考えられない医者なんて、独善的になりそう。」
先生は満足そうにうなずいた。
「もちろん、医師と患者の立場は明確に分けなければならないし、必要だけど恥ずかしいからやらない、なんてのはダメだ。」
「ええ。」
「と、いうわけでだな。この実習は医師になるための実技練習であると同時に、患者を体験する場でもあるんだ。」
学生たちはみんな頷いている。
「はい、立候補は?」
男子学生たちはまたもや俯いて目を逸らした。そりゃそうだ。理屈ではやるべきだと分かっても、みんな二十歳を過ぎたばかりのまだまだ純朴な男の子なんだから。
「居ないかー?」
一人の男子学生の手が上がった。
「やります。」
ええー、っと女子学生たちがザワついた。
「さすがだな。それでこそ天才作曲家のお孫さんだ。」
「やめてくださいよ先生。祖父を引っ張り出すのは。」
彼は怒ってはいない。いつもの事だ。先生も笑っている。
「すまんすまん。じゃ、カーテンの向こうで下半身全部脱いで診療台に乗って。準備が出来たら声を掛けてくれ。」
「はい。」
診察台に向かって歩き出した彼の足は少し震えている。手を上げてはみたものの、彼だって他の男子学生と同じくまだまだ純朴な男の子なんだから。
でも、その歩みに迷いはない。やると言ったらやる男だという事を私は知っている。
先生に言われた通りにカーテンの向こうに消えてしばらくすると、彼の声が聞こえた。
「準備出来ました。」
「よし、カーテン開けるぞ。」
シャー。
うわ…っという女子たちのつぶやきが聞こえた。普段一緒に勉強したり遊んだりしてる男の子のこんな部分をとつぜんボロリと見せられちゃ、衝撃受けるよね。しかもこれって…かなりの大物。
「実物ではなく、資料写真でしか見たことのない者もいるだろう。彼の意気込みに応えて、男性のここがどうなっているのかしっかり見せてもらえ。」
言われなくても女子たちはギンギンの目で彼のそこをガン見している。そして、ギンギンなのは目だけではないのがモゾモゾさせている太腿を見ればはっきりと分かる。
「いいか。男性のEDは多くの場合、体の問題ではなくセックスに対していだいている不安や不快な経験がその原因になっている。それを解消するにはどうするか。」
先生は学生たちを見回した。
「セックスが気持ち良くて素敵なものだと教えてあげれば良いと思います。」
私はそう答えた。
「その通り。じゃあ、実際にそれをやってもらおう。立候補は?」
女子学生たちが一斉にモジモジし始めた。やりたいのがミエミエだ。だって、若い男の、しかもこんなにリッパなそこを弄って気持ちよくさせる役なんだから。この年頃の女の子なら吐き気がするほど興奮しているに違いない。
でも、手は上がらない。やれやれ、根性なしども。
「居ないのかー?」
私は手を上げた。
「ねえ、私でも構わないかな?」
内心の不安や緊張で悲鳴を上げている心を必死に抑えつけ、密かな願いを込めて、何でもないかのように尋ねた。
「い、いいけど。」
彼はちょっと気まずそうな微笑みを返してきた。心の悲鳴はため息に変わった。
そう。
そのルックスと穏やかな内気さから、どんな女の子でも一度は世話を焼いてあげたくなるであろう彼が、私を選ぶはずなどない。最初から分かってた。
そう。
こんな形でしか私は彼を愛撫することが出来ない。
そう。
これは実習なんだ。医師役と患者役。疑似的な恋人同士。どんなに近づいても本当の恋人同士じゃない。
「さてと。」
のぞき込むように彼の顔に迫っていった。
「な、なに?」
不安そうな、でもどこか…いや気のせいだ。不安そうな瞳で見つめられた。
「緊張してる?」
「え、そりゃあ…。」
私は目を閉じ、口元に自虐的な微笑みを広げた。
「私も。」
「んぐ…。」
唇を合わせた。彼は逆らわない。逆らう気配もない。