高層ビルに切り取られた空-2
「ところでさ、いつものシャツ、どこで売ってるの?」
「売ってないよ。」
「え?でも着てるじゃない。」
清志くんはイタズラっぽい目をした。
「売ってない。でも、着れるんだよ、僕は。」
「なにそれ、ナゾナゾ?答教え」
「清志ー!」
甲高い女の声に私の質問はかき消された。
「蘭火(らんか)…。」
タタタタター、っと蘭火と呼ばれた女の人がピンヒールで走ってきた。
私より背が高く、モデルのような体形をしており、オシャレな街として知られるここでさえ抜きん出てセンスの良さを感じさせるファッションに身を包まれている。
でも、その目はゾっとするほど冷たい。
「何やってんのよ。この女、誰。」
「あ、あの、私は美野村…」
「そういう誰、じゃない。清志、なんで他の女とこんな所で一緒に居るのよ。」
「なんで、って言われても…。」
「二股?ちょっと見た目がいいからっていい気にならないでよね。」
「…。」
清志くんは俯いて黙っている。
「あなたが寂しいだろうと思ってわざわざ同じ美大に入ってあげたのに。他に女を作るなんて。」
「ちが…いや、あの…。」
彼らしくない。はっきりとした態度をとらない。
そんな彼の様子が気になって、つい訊いてしまった。
「あなたは?菅野さんとはどういうご関係ですか?」
「あらま、ずうずうしい。恋人に決まってるでしょ。」
清志くんの方を見た。
「妹、だよ、諒子さん。」
その瞬間、私の両目の奥にジーンとしたものが沸き上がり、気が付いた時には走り出していた。
「もうちょっとバレない嘘つきなさいよ、バカ…。」
何言ってるの、諒子。彼は私の患者で、治療の為に疑似恋人をやってるだけじゃない。本物の恋人が居たってなんの関係も…ない。
私は一瞬振り返った。二人は私の方なんかチラリとも見ないで何か話している。
ほらね、あの人にとって私はただの主治医。治療が終わればもう会うこともない。ない…。
あーあ、何やってるんだろ、私。なんか喰って帰ろ。走って疲れた。損した。喰って帰って屁ーこいて寝よう。
バカみたい。バカみたい。バカ…みたい、私。