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『プラスチックリング』
【悲恋 恋愛小説】

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『プラスチックリング』-1

「ねぇ、どうしたってのよ?明日は挙式だってのに……あっ!それって、マリッジブルーってヤツ?」

そんなに今のあたしって暗い顔してるのかな?

オープンカフェの席の向かい側で呆れた様に呟く十年来の親友の言葉にあたしは小さく笑う。

夏の近付きを物語るような強い陽射しを避ける為に、あたしが手の平を空に翳すと陽光を反射して薬指のリングがキラリと光った。

「でも、仕方ないのかな。結婚したら旦那の住むところに行っちゃうんでしょう?淋しくなるね。」

そんな台詞にあたしは小さな溜息で答えた。

言葉ではなく溜息で……


だって…今、口を開いたらすべてを話してしまいそうなのよ。あたしの秘めた想いを……




『ねぇ、僕のコト好き?』


幼い頃、縁日の夜の喧騒の中で彼はあたしに言った。それは、あまりにも無邪気で残酷な問い……


『うん!大好きだよ!』


それでも幼さ故にあたしは自分の気持ちを正直に口にする。


『じゃあ、約束。将来僕のお嫁さんになるって……。これ、誓いの指輪だよ。』


婚約って言葉を知らないぐらいにあたし達は幼かった。露店のプラスチックの指輪をはめて、あの頃のあたしは満足そうに笑う。それは、なによりも大切な宝物を手に入れて、なによりも大切な約束を交わした事がただ嬉しかったから。



けれど、時の歩みは止まらない。成長という名の下に詰め込まれていく知識は、空に浮かぶ綿菓子が霧の集合体である事を教え、ウサギが月に住んでいない事も、遠い日の約束が決して叶わないという現実をも教えてくれた。

それでも傍にいられるなら、あたしは満足出来た。
満足出来る筈だった。



「独身最後の日かぁ……。今、どんな気持ち?」

呟く様な彼女の言葉にあたしの意識は現実に引き戻される。少しの間をおいて、静かに答えた。

「早く明日になってほしいわ……」
「これはこれは、ご馳走様でした。」

そんな答えに彼女はおどける様に言う。だけど彼女は知らない。親友であるあなたにさえ言えない秘密があるってコトを。

あたしが自分からこの街を離れるのを望んでいるって知ったらあなたはどんな顔をするのかしら?


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