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『プラスチックリング』
【悲恋 恋愛小説】

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『プラスチックリング』-3

「あたし、幸せなのかな?」

不意にそんな言葉があたしの口から零れ落ちた。

「何言ってんのよ!優しくて素敵な人じゃない。羨ましいぐらいよ?」

彼女はそう言って呆れた様に笑う。そうよね。世間的に見ればあたしは幸せな筈……

だけど違うの。自分の想いを貫けなかった卑怯者なのよ、あたしは……

自分の胸のうちを全て吐き出せたなら、どんなにいいだろう。白い目で見られ様と後ろ指を指され様と自分の心に正直になれたのならば、それ以上望まないのに……

可哀相なあたしの想いは誰にも知られるコトなく、ひっそりと心の奥底にしまわれていく。

「ごめんね、ちょっとトイレに行ってくる。」

彼女はそう言って席を立ち、テーブルにはあたしだけが残された。

陽射しを避ける様にもう一度手を上げてみたけれど、六月の空はいつのまにか一面の雲に覆われていた。

空に翳した左手には、あの頃の指輪はもう無い。

あたしが結婚して幸せになるコトが彼の望み。だからその願いを叶える為だけに明日あたしは嫁いでいく……

こんな言い方をするあたしは酷い女よね。だけどそんな風にしか今は考えられないの。

ゆっくりと辺りを見回すと、テラスにはあたしだけしかいない。

「もう、あの指輪は小さくてはめられないわ……」

独身でいる最後の日だからこそ、あたしは胸のうちを小声で呟いた。

「あなたの望みを叶える為に、幸せになってみせるから……」

今のあたしには、それだけが心の支え。そんなあたしの頬を一筋の雫が流れ落ちていく。

「これが最後……。だから一度だけ言わせて、今でもあなただけを愛しているの……お兄ちゃん……」

ぽつぽつと雨の雫が地面で踊り始めている。
嘘と皮肉で塗り固められたジューンブライドを嘲笑うかの様に。

自分と彼女の荷物を抱え、屋根のある場所に移動したあたしのところに、息を切らせて彼女は戻ってくる。

「ごめんなさい、ありがとう。あ〜あ、せっかくの休日なのに降って来ちゃったね。この後どうしようか?」
「どこでもいいわ。最後の一日を楽しみましょう。」

あたしの言葉に彼女は、そうだねって笑うとあたし達はこの場所を後にした。




そして、誰もいないテラスのテーブルでプラスチックの指輪が雨に濡れている……


(さようなら、お兄ちゃん……)


最後に呟いた、あたしの言葉とともに……





END


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