裸の旅団/森の街-7
気が付いたのはトラックの横に建てられた大ぶりのティピ・テントの中だった。この街は深い森に覆われて、強い陽射しはテントにさえ届かなかった。
躯が恐ろしく重く、ぼんやりとしたランタンがケインの瞼を焼き焦がした。
「身体の方は大丈夫さね。で、憶えてきたんだろうね」
自然と口からは夥しいまでの数字の羅列が流れるように溢れ出て、枕元の「百眼のおばば」が手際よく古ぼけた手帳に書き記して行く。硬めの羊皮紙の上を硬筆がよどみなく流れるように走り、封蝋をするための小さな壺がアルコールランプの上で爆ぜた。
「百眼のおばば」が何歳なのか。「おばば」と言っているけど本当に性別があるのかどうか。
分厚いオーバーコートのようなそれは民族衣装のようで奇怪この上ない。
ティピ・テントの入り口が揺れ、紳士然とした男が布を捲り上げて入って来た。
「……ああ、数字の方はどうかな。間違いがあるとちょっと困るが」
「そりゃ、ケインの十八番だからね。」百眼のおばばが手際よく「親方」に手帳を差し出した。
その紳士然とした「親方」はそれをさらりと流し読みすると、頷く。
「サインの偽造は?」
「明日のこの街の新聞には充分に間に合うし、売り抜けも終わった。「ガセー」とかいう名義でね。サインの方は後で描かせておくよ。何しろケインはそんなのに限って間違いがないからね。
一晩のお楽しみで生涯の幸福を失うのかい。いつもの事だね、なまねこ、なまねこ、なまねこ。」
「百眼のおばば」は割れた陶器のような呪文を唱えるとケインのプラチナブロンドの髪をなでつける。
「対価というものがこの裸の旅団にはないのが残念だけどね。この子は好きな事してんだからさ。男娼だし、虐められるのが何より好きだからねえ。そうだろ?ケイン」
プラチナブロンドの髪を「百眼のおばば」に撫でられながら、ケインは無邪気な笑みを漏らす。
「そう。楽しかったよ、もう、最っ高にさあ」
森の草木を騒がせているのは虫か、獣か。
それとも猛毒を持つ蛇か。