第41話 『玩具で遊ぶ』-1
絶対服従週間最終日にあたる日曜日。 トレーニング体育館や各種準備室、生徒会倉庫に事務倉庫といった普段立ち入れない場所が解放されていて、設置された器具の使用も認められている。 自分たちが経験したことのない備品を試すにはもってこいの人身御供――湿実寮で散会した2・3組のBグループ生――を伴い、Bグループ1組生たちは『学園』に向かった。
一方、Cグループ1組生だ。 寮の裏に隠れた49番や、食堂で大っぴらに命令を愉しむ50番は少数派。 ほとんどは先輩がいなくなった自室に同期を連れ込んで、人目を気にせず勝者の権利を行使する。 中には横暴だったり、不条理だったりする生徒もいるが、寧ろ普段出来ないことを愉しもうとする生徒が多数派だ。 29番にリードをつけて自室に連れ込んだ55番は、そういう意味では多数派生徒の1人といえよう。
「さあーてっ、何してもらおうかなっ……とかいいながら、全部決めてるんだけどねぇ」
ボフッ。 ベッドに腰をおろした55番は、部屋の入口で不安そうにモジモジしている29番を楽しそうに見上げた。
「大丈夫? 顔色あんまりよくないけど?」
「……体調は別にどうもないですけど、なんというか、私どうなっちゃうんだろう……って」
「ふふっ……正直っていうか、ストレートだねー」
クスクスと55番は忍び笑った。
「心配しないでいいよ。 命令ったって、同級生なんだもん。 そこまで無茶はいわないよ」
「あ……ありがとう……。 55番さん、優しいんですね」
「そうでもないと思うけど……。 っていうか、将来立場が逆転するかもしんないんだよ? 来年の体育祭がどうなるか分かったもんじゃないし、いつか仕返しされるかもしれない相手にさ、大それたことなんてできやしないって」
そういうと55番は肩を竦めた。
「……といっても、何も命令しないっていうのもつまらないし、いつも先輩にやらされてることをさ、ちょっぴり立場を変えようかな〜くらいは思ってるから、覚悟はしてよね」
「私、何をしたらいいんですか?」
「君、舐める人、うち、舐められる人。 とりま、全身隈なく綺麗にしてもらっちゃおうかな。 そこに仰向けに寝っ転がって」
55番は足元の床を指差し、29番は素直に従う。
「はい、お口をアーンして」
「……あー」
「もっと大きく、めいっぱい拡げて」
「あんが……んが……ッ」
顎が外れそうになるまで、全力でもって顎関節を伸ばす。 それを見た55番は、
「おお〜……すごいねぇ。 顎が柔らかいんだぁ」
ため息交じりに感心する。
「じゃあ口はそのままで、舌を真っ直ぐ伸ばしてみよう」
「ひゃい……んべ……えぇ〜」
口を拡げるべく顎を引いているせいで、29番は唇がめくれて肌にひっついている。 そんな状態で舌根ごと外に伸ばすから、普通に舌を伸ばすよりも長く見える。 舌裏に密集する味胞から表の味蕾まで一目瞭然だ。
「わお。 もっと伸ばせーっていうつもりだったんだけど……もう十分だわ。 っていうか、君ってホントすごいよ。 うちらだってそんなに舌は伸びないもん」
「んぇぶ……くぅん……」
口腔から覗く真っ赤な舌は、さながら植木鉢から芽をだした赤いクロッカスだ。 大振りで柔らかそうな唇から、ざらついた花蕾が唾液を朝露に顔をだしていた。