第32話 『ペナルティ授業、保健と情報』-2
「2組生。 机の上で四つん這いになりなさい。 第5姿勢(マングリ返し)なんてとろうもんなら、苦しすぎて死んじゃうかも。 悪いことはいわないから、背中をまっすぐ伸ばして、直交な膝つき四つん這いでジッとしとくといいわ」
2組生が9号のコメント通りに行動する。 少女たちは自分達の寮監に誇張がないことを知っていた。 寮監が『死んじゃうかも』といえば、本当に死ぬ危険性がある。
「1組生。 ファイバーを挿入する前に『グリス』をたっぷり塗りなさい。 潤滑系だから弁や粘膜、柔毛を上手にすり抜けられますからね。 それと『グリス』は炭酸を内包していて、体温で温めると炭酸ガスに蒸発するんだけど、腸みたいに狭い場所を気圧で拡げてくれるの。 ファイバーが先へ進めるように、よ。 塗り過ぎたとしても、気にしないで大丈夫よ。 お腹の中に炭酸が溜まるくらいで、特に問題もないでしょうから」
小腸、大腸には消化過程にある食べ物や、排泄物が詰まっている。 いくら自走機能があるといっても、大便がつまった大腸内であれば、ファイバーは先に進めない。 そこでファイバーが炭酸ガスを放出すれば、もともと柔軟な腸である。 大便が押しだされたり、腸の壁そのものが拡がったり、とにかくファイバーが進むスペースが出来るという塩梅だ。
「まずはチェックポイント@までスタートなさい。 鼻の穴は右でも左でもいいけど、胃袋さんの入口的に見たら、右の鼻が若干挿入しやすいかしら」
こうして少女たちの『体内観察』が始まった。
「かっ……は……っ、くは……っ」
「ふぎぃ……いっ、ぎっ……!」
「おえっ……ぶうぇっ、うぶぇ……うおぇぇぇ……っ」
たちまち実験室が酸っぱいえづきと耳に残る空嘔吐で噎せかえる。 変なものが食道の天井に触れた場合、人体には『異物排除システム』が備わっていて、嘔吐あるいは吐瀉を身体に強制するようになっている。 そんな逆流衝動をものともせずファイバーが侵入してくるんだから、ファイバーの挿入自体は痛くないが、連続する吐気で息も絶え絶えに喘ぐしかない。 ジッとするべく手足に力をいれても、ありあまる吐気のせいで、ビクン、ビクッ、身体が意志をは無関係に跳ね、震える。 既に2組少女達は、意志で体をコントロールできる範疇にいなかった。
悶える2組少女に対し、スケッチするためと割り切った1組生は淡々とファイバーを挿入する。 喉を進んで胃に達し、カメラが映すすべすべな胃粘膜を物珍し気に眺めている。 胃と十二指腸を繋ぐ噴門部をファイバーが通過した瞬間が――咽喉部を逆流するときも大概だったが――1連の苦痛のピークだった。 腸に入ってしまえば、あとは突発的にやってくる吐気に耐えていれば、自然に肛門までファイバーが進む。 『グリス』の潤滑効果は抜群で、微柔毛や大腸上皮に絡めとられることもない。 但しグリスに溶けきれなくなった炭酸ガスのせいで、少女たちは例外なく狸のポンポコになっていた。 四つん這いになので、大きいお腹を抱える少女たちは盛りがついた豚そっくりだ。 しかも体内に溜まったガスが肛門から溢れるたび、
ぶすーっ、ぶふっ、ぶびっ、びぼぼぼぼ……。
下品さでは豚の鳴き声に勝るとも劣らない濁音がほとばしる。 2組生たちは目尻からポロポロ涙をこぼし、消化管を蹂躙されるに任せていたが、涙の原因の1つには、放屁を止められない口惜しさが入っていたかもしれない。 とにかく品性が欠如した、しかも異臭プンプンな放屁によって、生物準備室には芳しい薫りが満ちていた。
「チェックポイントIまでスケッチが終わったら、ファイバーを引っ張って抜きなさい」
ファイバーの先端が肛門まで達したのだから、そのまま肛門から抜いてもいい。 そうさせないのは9号が持つ拘りだ。 腸に達したファイバーを引き抜けば、ファイバーにこびりついた便滓が胃に戻る。 汚物が喉に付着する。 嗅細胞がつまった嗅上皮表面に、腐った大便が塗布される……牝に相応しい糞化粧といえよう。 しかも、自分の糞を一旦出してから塗るんじゃなくて、身体の中を逆流させて処置するわけだ。 いかにも牝らしい素敵な発想だ――と9号は思う。
それにしても。
「……思ったより平気そうなんですケド」
体をファイバーで貫かれた2組生を眺めながら、9号教官は呟いた。 肛門から口にかけて異物を逆流される体験は、既にみんな済ませているんだろうか。 もしそうとすれば、2号教官のカリキュラムは噂以上に凄まじい。 体内洗浄や肛門経由での液体逆流は、Bグループ生向きの上位カリキュラムに位置づけられる。 まだ2学期途中のCグループ生が体験済みな経験ではない。
ファイバーを挿入する1組生の方が、まだしも処置に緊張感をもっていた。 体の中を傷つけまいと、えぐっ、えくっ、蠕動するのど越しに、丁寧にファイバーを動かしていた。