り-3
「さぁ、どうだろう・・・」
そう加賀に返事をして
もう一口、コロナを飲めば
さっきよりライムの味が濃い感じがして
俺の味覚が戻ったか?
そんな事に可笑しくなった。
俺は自分で思っているより白石に会いたかったらしい。
瓶の中のライムを一瞬眺めて
ライムにまとわりついているその泡の瓶越しに白石を見つめる。
そのシュワシュワと小さな音を立てるかのような泡は
そのまま白石を想う俺の心の様で
俺の心も泡に負けないぐらい浮だっている。
カタンと小さな音を立ててテーブルに瓶を置いたつもりだけど
生演奏のその騒がしさにそんな小さな音はかき消されて
気を付けないと、白石の小さな勇気も音楽に吹き飛ばされそうで
俺は必死に捕まえに行く。
数歩で届くその位置に白石がいる。
それはなるたけ自然に見えるように白石の腰を抱いた。
「出よう」
たった一言だけ耳元でそう告げて
後ろを振り返って加賀に片手を挙げた。
はいはい、とでも言うような苦笑いをして
加賀もモスコミュールを飲み干した。
フロントにタクシーを頼んで
待つために外に出れば、今にも雪が降りそうな寒さで
コートの襟元を掻き合わせる。
「さむっ」
どうして来たのか
お互いに、その事には触れずに
俺はマルボロに火を付ける。