4-11
「素敵なプレゼント、ありがと、サンタさん」
ゆっくり立ち上がった莉奈は、夢威叶の手をしっかり握って頭を下げた。
俺は、何もしていない。
だけど、コイツらの夢を壊さない為に、俺はただ微笑んで見せた。
「ママ、手、痛いよ」
痛みで顔を歪める夢威叶に笑いが込み上げてくる。
その手を離したくないからなあ。
俺と抱き合った時より、遥かに強く握っているであろうその手を見た俺は、
「じゃあ、俺は帰るから」
とだけ告げて、2人に背を向けて歩き出した。
こんな幸せいっぱいの2人に、サンタをクビになったなんて言えるはずがない。
もともと空想の世界で存在していたサンタクロース、いつかは夢威叶も莉奈も、見えなくなる日が来るかもしれない。
だから、ここはこのまま去った方がいいのだ。
踏み固められた雪の上をまた一歩、一歩踏み出していく。
すると、
「サンタさん! また、来年のクリスマスも来てくれるよね?」
と、莉奈の声が聞こえてきた。
「あたしも夢威叶も、ずっとずっと、サンタさんがクリスマスに来てくれるって、信じてるから!!」
クルリと振り返れば、ニコニコ顔の夢威叶と、どこか寂しそうに俺を見る莉奈。
なぜかアイツらを見てると、鼻がツーンと痛くなる。
そんな2人に向かって、
「おう、待ってろよ」
と大きく手を振った。
来年のクリスマスどころか、明日のことすらどうなるかわからない俺だけど。
奇跡を起こしたあの2人が俺の存在を信じてくれている限り、きっとまた、クリスマスに奇跡は起こる。
いや、奇跡は起こしてやる。
なんてったって、俺はサンタクロースなんだから。
じっとこちらを見るアイツらに向かって、
「また、来年な!!」
と叫んでから、俺は走り出していた。
〜end〜